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「行くか?」
「あぁ、無線を開ける」
先輩が何やら動くと、車内にラジオのようなノイズが聞こえ始めた。
そのノイズ音が消えたかと思えば、
「耀平だ。エンと合流した。今から向かう」
名波先輩がそう言って、
『了解です』
ノイズ音と共に誰かの声が聞えた。
…無線…、だね。
初めて見るやり取りに、目と耳が釘付けになる。
なんか格好良い。僕の知らない世界だ。
「葵ちゃん、ちょっと今から峠を上がるから」
「わかりました」
頷くと、そこから少し走り方が変わった。
スピードが増したみたいで、体が後ろに引っ張られる感じがする。
街中を抜ければ、ここから先は松尾山だ。
観光地も無い為に、この時間になると走っている車はほとんどいなくなる。
…そのはずなのに…。
山を上り始めたぐらいから、徐々に車の数が増えている。それも、ほとんどが改造車だ。
…もしかしてこれは…。
僕が窓の外の光景を眺めて固まっていたら、また総さんが教えてくれた。
「葵君は、走り屋って知ってるか?」
「はい」
「この峠は走り屋が集まる場所でね。俺達も、後ろの松浦も走り屋なんだ」
「………」
この車からして、もしかしたら…とは思っていたけど、本当にそうだと言われるとさすがにビックリする。
おまけに、
「今夜一緒に行動していればわかると思うが、耀平と松浦は走り屋の中では神とまで言われるくらいに有名でな。だから、こいつらと親しくしていると妬まれる事もある」
「総。そこまでに、」
「耀平、葵君に少しでも警戒させた方がいいぞ」
「………わかってるけど」
固まっている俺を見て、どこか気まずそうに話を止めようとした名波先輩だけど、総さんの言葉にまた押し黙った。
「だから、絶対に俺達の傍から離れるなよ?市街地だとさすがに目立つからここまでは俺が運転してきたが、元々この34は耀平の車なんだ。だから上に着いたら耀平が走る事が多くなる。その時は、俺か加瀬の傍から離れない方がいい」
「加瀬…さん?」
「あぁ、俺は耀平の従兄弟で名波総。ややこしくなるから俺の事は総でいい。加瀬成美は松浦の幼馴染で、いま後ろの赤い34を松浦の代わりに運転してる奴」
「…もしかして…」
「後ろの34も松浦の物だ」
「………」
ありえないよね。なんで高校生が車持ってるの。
それも、走り屋の中で神とか言われるくらいに運転が上手いんだよね?
なんで?まだ免許も取れない年齢なのに、なんでそんな…。
疑問だらけで頭がクラクラしてきた。
「葵ちゃん、誤解してそうだから言うけど、車の名義自体は親父のだから。エンも」
「…あ…、そうですよね、ビックリしました」
顔だけをこっちに振り向かせた名波先輩の言葉に、疑問が1つ減ってホッとした。
でも…、
「耀平、葵君はまだ疑問があるみたいだぞ」
総さんは面倒見が良いみたいで、物凄く気にかけてくれている。
名波先輩ほどではないけれど、やっぱり同じ血筋だからかな…女の人にモテるだろう容姿。黒髪が男らしくて格好良い。羨ましいほどに。