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夜の語らい

    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 辺りは完全に暗くなり、空へ高く昇った満月が城下街へ優しい光を贈る頃。


「はあ……すごく疲れた」


 ボスンッと音を立てて、みなもはベッドへ突っ伏す。

 顔を横に向けると、テーブルに置かれたランプの火が揺らめいている。

 灯りが自分を労ってくれているような気がして、疲れて強張った体と心が徐々にほぐれていく。


 ゆっくり長息を吐いていると、ベッドが軋み、みなもの隣がわずかに沈んだ。


「そんなに大変だったのか?」


 レオニードの低い声に、心配そうな色が乗っかる。

 顔を上げずに、みなもは「うん」と頷いた。


「最初は女神の衣装の打ち合わせだったんだけど……段々みんなが『せっかくだから、この服も着て下さい』って、まったく関係のない服も着せてくるんだ。無下に断る訳にもいかないから、気が済むまで我慢しようと思ってたけど――」


 目を閉じると、昼間の光景が鮮やかに脳裏へ浮かぶ。

 まるで着せ替え人形で遊ぶ子供のように、次から次へと、思いつくままにあれこれ着せられた。


 貴族の娘が着る豪勢な作りのドレスや、普段着にも使えそうな飾り気のないドレス、袖や襟元などに赤い花が刺繍されたヴェリシアの民族衣装……かれこれ十着、いや、それ以上は着せられていた気がする。


 衣装を身に付けたら即座に「じゃあ次はこれ」と、新しい衣装を着せようと取りかかる。

 モタモタしていると彼女たちの手が伸び、容赦なく人の服を脱がそうとしてくるので、仕立て屋を出るまでずっと気を張り続けていた。


 今なら毛刈りで丸裸にされる羊の気持ちがよく分かる。

 内心げんなりとしながら、みなもは首を動かして隣りを見た。


 レオニードは片膝を軽く曲げ、壁に背中をもたれかけている。

 薄く苦笑を浮かべ、彼は昼間に見せた温かな眼差しでみなもを見つめていた。


「叔母さんが、どの服を着せても素敵だったと言っていたぞ。君には悪いが俺も見てみたかった」


 ゾーヤさん……針子さんたちと一緒になって、「次はこれが良いんじゃない?」と着せる服を吟味していたな。


 心から楽しそうだったゾーヤの顔を思い出し、みなもは小さく息をついた。


「大変だったけれど、みんなに喜んでもらえたみたいで良かったよ。でも……」


 あの中で一人だけ、笑顔を作りながら凍てついた視線を送っていたクリスタが脳裏をよぎる。

 昼間に感じた胸の痛みが、じわじわと滲み出てきた。


「……そういえばクリスタさんっていう人から、小さい頃からレオニードのことを知ってるって聞いたよ」


 クリスタの名を聞いた瞬間、レオニードの表情が曇る。


 単なる顔見知り、って訳ではなさそうだな。

 みなもは腕を立てて身を起こすと、レオニードへにじり寄る。


「聞いてもいいかな? クリスタさんとはどんな関係?」


 困ったようにレオニードの眉間にシワが寄る。

 しばらく真正面から見つめ合った後、彼はため息混じりに呟いた。

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