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ゾーヤの家へ

    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 勅命の手紙を受け取ってから二週間後、みなもとレオニードはヴェリシアの城下街へと足を運んだ。


 女神の衣装を合わせるために、何度か仕立て屋に顔を出さなくてはいけない。

 流石に森の小屋から通い続ける訳にはいかず、以前にレオニードやボリスが住んでいた家を使うことにした。


 まずはゾーヤに挨拶しようと、彼女の家の扉を叩く。

 中から「はいはい、ちょっと待ってて」と、しゃがれた声が返ってきた。


 そして小走りに玄関へやってくる足音が聞こえたと思った矢先、勢いよく扉が開いた。


「ああ、やっぱりアンタたちだったんだね! 来てくれて嬉しいよ。さあ、入って入って」


 満面の笑みを浮かべながら、ゾーヤがレオニードの肩を叩いて、中へ入るように促してくる。 


 誘われるままに二人が家へ上がると、食卓にボリスの姿があった。

 ゾーヤとお茶の時間を楽しんでいたらしく、彼の前には湯気が立っている紅茶と、細く短いパンのような物を油で揚げ、砂糖をまぶしたお菓子が並んでいた。


「いらっしゃい、二人とも。しばらくぶり」


 にこやかに手を振るボリスへ、レオニードは「ああ」と素っ気なく答え、彼の隣へ座る。 少し遅れてレオニードの向かい側にみなもが座ると、ゾーヤが台所から紅茶を運んで二人の前に置く。

 紅茶の熱気がみなもの顔へ届いた時、ゾーヤはゆっくりとボリスの向かい側に座った。


「この時間にボリスが叔母さんの家にいるのは珍しいな」


 おもむろに口を開いたレオニードを、ボリスが横目で見ながら眉を上げる。


「ちょっと僕の物をこっちへ運ぶために、今日はお休みをもらったんだ。あっちの家は二人で使えばいいよ。僕は建国祭が終わるまでゾーヤ叔母さんの所にいるから、夜は遠慮なく……ね?」


 からかうように片目を閉じたボリスから、レオニードはわずかに目を逸らす。

 人で遊ばないでくれ、という心の声が聞こえたような気がした。


 ゾーヤは「初々しいねぇ」と呟いて紅茶を一口含むと、みなもへ顔を向けた。


「貴方が女の子だってことは、アタシから言わないから安心しておくれ。……できれば早く娘の格好に戻って、みんなを驚かせる日が来て欲しいんだけどねえ」


「うんうん、僕もそう思う。でも、こうやって秘密にしているのも面白いから、なくなると残念だなあ」


 ……この調子なら秘密をバラされる心配はなさそうだけど、何だか遊ばれてるような気がする。まあ自分で蒔いた種だから自業自得か。


 小さく苦笑してから、みなもは「しばらくお世話になります」と会釈する。

 ポンポン、とゾーヤがこちらの腕を軽く叩いた。


「そんなにかしこまらないで。もう身内同然なんだから、ここもあっちの家も自分の家だと思ってくつろいで欲しいわ」


 身内。

 その言葉が嬉しい半面、胸の奥がチクリと痛む。

 思わず目頭が熱くなって、瞳が潤みそうになった。


 唯一の肉親である姉――いずみと別れて、そろそろ二ヶ月が経とうとしている。

 最後に言葉を交わした時に向けられた姉の笑顔が、鮮やかに脳裏へ浮かんだ。


 まだ会いたいという未練は残っているが、それは叶わないこと。

 だからその分、新しく手に入れた身内を大切にしたかった。


「……ありがとうございます」


 みなもはゾーヤに微笑むと、顔を前に向け直す。

 と、黙ってやり取りを見ていたレオニードと目が合う。


 こちらの思いを察してなのか、眼差しがとても優しくなっている。

 そんな目で見られていたのかと思うと、妙に照れくさかった。







 しばらく紅茶と菓子を楽しみながら談笑していると、ゾーヤが急に「あっ、そうだわ」と声を上げた。


「みなも、今日はこれから時間取れそう?」


「ええ、大丈夫ですよ。食料の買い出しに行ってから、今日はもう家でのんびり過ごそうと思っていたところでしたから」


 頬にを手を当てて、ゾーヤが大きく息をつく。


「できれば今から行きたいんだけどねえ……レオニードだけで買い出しに行ってもらってもいいかしら?」


 茶目っ気たっぷりな視線を向けられ、レオニードがすぐに頷いた。

 返事を聞いてゾーヤは満足気に頷き返し、今度はみなもへ同じ視線を向けてきた。


「実は女神の衣装を担当するお針子さんたちがね、できれば早くみなもに会いたいって言ってたのよ。だから今から仕立て屋さんに貴方を連れて行きたいの」


 これからお世話になる人たちだから、こちらも早く挨拶をしたい。

 みなもは間を空けずに「分かりました」と答えを返した。

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