84 裏切りⅢ
84 裏切りⅢ
手始めとでもいわんばかりに莉磨は大剣を一条へと振るった。一条は受けとめようとはせずうけながす。憲は静かに背後から一条へと近付いていた。莉磨は受け流された大剣を腕力だけで軌道を変え一条の肩を狙う。
「冗談だろ…」
予想外の軌道に一条は硬直し反応が半歩遅れ肩から腹にかけて一筋の線が出来る。バランスを崩したところで憲がその首を落とそうと横に大剣を振るう。
「!!」
思わぬ攻撃に一条はマントを外し回避に専念する。
「手駒も消えたか…」
ふと思い出すように一条は呟き大剣を抜いた。そしてそれを捨てる。
「莉磨の勝ちだよ」
皮肉気にしかし曖昧な笑みを浮かべ妖気が上昇する。人型を喪い皮膚がはがれ不格好な筋肉が剥き出しとなる。
「覚醒…」
莉磨は呟いた。いくつにもわかれた両腕にあまたの刃を宿し馬のような両足でしかし頭も首もない。胴からさらに肉体がはえており二本の足がくっついている。さらにそのさきに頭。無数の牙が並ぶ口はすでに人のものではなく頭からはえているのは髪ではなくするどい刃の様なもの。一条の面影など無いに等しかった。
きき覚えのある声に笑みがこぼれる。引き抜かれた剣に目を潜めしかし大剣をふるう。かんだかい金属音と火花がちりアリスの長い髪が揺れる。
「成程、成功体といっても所詮はこの程度か」
アリスは鼻で笑い剣を持ちかえる。
「斬り伏せ…消命」
アリスの言魂と同時、剣の形状が変化する。細長い刀身に小さな持ち手。
「あまり油断しない方いい」
アリスは言った。そして恭悟へと斬りかかる。正確にいうならば突きにでた。恭悟はそれを回避しその腕を斬り落とそうと大剣を振るった。しかしその細い刀身によって阻まれる。
「!!」
「言っただろう?油断しない方がいいと。これでもアリスの魔剣さ」
大剣を流されためのない突きがくる。ためが無い分回避は間に合わず右肩を貫かれる。
「くっ…」
左手に持った大剣を振り上げ突き刺さる細長い刀身を叩きおろうとする。しかし出来ない。
「!…な……」
恭悟は触れた刀身から鼓動を感じた。一定のリズムで刻まれる心臓のようなそれ。恭悟に焦りと疑問がみちる。友浩が一切の躊躇なくアリスの首を落とそうと斬りかかった。
ふと感じるのは痛み。どちらかといえば鈍いもので骨折かと慎吾は一人納得した。
「あの二人が血相変えて戦ってるって事は手を出しちゃいけないのか」
呟きとほぼ同時にふっと息をはき痛みの具合いを確認する。
「肋骨……と、肩もか」
どうやら上半身から着地したらしく背中というよりは肩の方が痛い。思っていたよりもアリスの力は強かったらしい。
「修理に専念しようか」
地面におかれた大剣を見つめ、そして目をそらした。