memory8 友浩
memory8 友浩
雪が降り積もり吐く息が白くこおり空へと舞い上がっていく。真新しいマフラーが異様にあたたかく感じられおかしな気分だった。
「キョウ、お前はどーする?」
友浩はふとホールケーキを見付け隣を歩く恭悟に問う。
「男三人でケーキっすか」
恭悟は無意識の内に頬をひきつらせる。
「ヨシくんは喜ぶと思いますけど」
「小さいの買ってくか」
4号5号サイズのケーキが売れるなか3号サイズのケーキを受けとり千円札を手渡す。にこやかな店員とは裏腹、友浩達の表情は曇っていた。
「ヒロさん……」
恭悟が焦り気味に声をかける。
「わかってる。つけられてるんだろ」
恭悟は静かに頷く。少し離れた異質な気配に友浩がわざとらしく笑顔を見せた。
「いくか」
声をかけ歩き出す。速度は前と変わらずただしうまい具合いに尾行者と距離をとり多少離れた所で角を曲がる。
「どうだ?」
「まだっすね」
後ろを一瞥しほんの少しだけ速度を上げた。
「ヨシくんに連絡入れといたほうかいいんじゃないっすか?」
恭悟は元々のルートから大幅に外れていることに気付き言った。
「そうだな」
友浩は手に持っていたケーキを恭悟へと持たせ携帯電話を取り出す。
「気配が消えましたね」
「ここを曲がって帰ろう」
とっさの判断で十字路を右折する。
「「!?」」
不意打ちでしかけられた攻撃に二人は反応できずその場に手荷物を落とした。携帯電話を落とした音は意外にも響きホールケーキは箱から飛び出し無惨にも地面の上で崩れていた。二人に意識はない。
次にみた景色は薄暗い実験室の天井だった。
微かな薬品の香りが鼻孔を擽り脳を覚醒させる。四肢を繋がれているなと感覚だけで理解した。
「誘いこまれた、のか?」
ふと記憶を遡り冷静に分析する。どうやらいいように動かされていたらしい。
「キョウ、は…いるわけないか」
微かに感じる気配は壁をはさんだそのまた向こうにあった。友浩は思わず溜め息をつく。
「嫌な予感だな」
唐突に響いたのはきき覚えのある声色で完全な絶叫。らしくないような声に不安が広がる。いや、不安と言うよりは苛立ちなのかもしれない。叫びの理由も何もわからないこの状況に苛立ちが募っているのだ。
「どうやらこちらも目が醒めたらしい」
不意に女とも男ともとれるような曖昧な低さの声と共に光が入り込む。
「誰だ?」
我ながら呑気だとは思うが問わずにはいられない。
「言うわけがないだろ」
「だよな」
分かりきっていた返答に溜め息も苦笑すらもれない。次に問うべき事を考えるが直ぐにやめた。逃げ道すら見付からないこのなかではわかっても無意味。
「成程、お前も何も聞かないか」
薄く笑った気配。
「まぁいい、ちょっとした実験に付き合ってもらうよ。成功したら永遠に近い生命力を手に入れるだろうよ」
適当な説明と同時、左腕から注射器らしきもので何かを入れられる。
「好きなだけ叫べ」
一言告げられ扉が閉まる。光があったからなのか先程よりもはるかに暗く感じる。血管の中で何かがうごめいた。
「確かにこりゃ絶叫もんだな」
冷や汗と共に苦笑がもれる。入れられた何かは血管の中を動き回り全身に広がっていく。激痛よりも不快感がさきだち思わず声がもれた。