82 裏切り
82 裏切り
アリスはふっと鼻で笑った。一条が後ろを一瞥する。
「竹内……海斗…」
莉磨はおそいかかる刃を弾き受け流す。後ろに構える陸斗を一瞥し海斗をまかせた。
「!」
次に来る攻撃をギリギリでかわし半歩後退む。由哉とよくにた、しかし由哉よりも少し幼い顔立ちの貴哉が呪術を発動させる。高速の光が走り莉磨へと向かった。
日本刀を強く握り締める。ゆかりを前にこれ抜くのは何回目だろうか。どうころぼうがこれが最後になる。ゆかりはどれ程の改造を施されたのか。たとえあの時のままでも、淋に躊躇というものは無かった。
「染まれ…紅姫」
それは言魂でアリスの魔剣を従わせる術。紅く染まる刀身が本来の姿。
「バイバイ…ゆかり」
淋は言った。紅姫が静かに振り下ろされる。ゆかりに抵抗はない。
「竹内くんは助けられるよ。今はあのヒトに取り付かれてるだけ。竹内くんはね、淋をちゃんと……受け入れてたよ……」
紅姫の刃はゆかりの肩を切り裂き臓器を傷付ける。ゆかりはその場に倒れこみ動かなくなった。淋は静かにきびをかえし莉磨の元へと歩み寄った。
流れ込むようにきた海斗を弾き飛ばし莉磨から距離をとる。海斗はむくりと立ち上がり陸斗に面と向かう。死人のような虚ろな瞳に陸斗をうつし狂喜めいたまがまがしい妖気を纏うアリスの魔剣を握り締める。
「にい……ちゃん」
言葉と共に大剣を持ち上げ陸斗へと振り下ろす。陸斗はとっさに後ろへ飛び退きギリギリで回避する。海斗は最短距離を人外の速度で駆け抜け陸斗の後ろをとった。
「!」
わかっていても避けることは出来ない。銀色に光る刃が弧を画き首筋にめり込んだ。
日高は思わず舌打ちした。呼び出されたそのときは驚愕と恐怖があったが今は怒りが大半をしめておりそしてなにより悔しさがあった。所詮自分は組織の駒であったらしい。最も、それは最重要項目ではない。苛立っているのは現在の指揮官だ。今までのやり方とは大きく違う。今までは如何に隊士たちの感情を制御し如何にうまく動かすかだった。しかし今は、隊士の感情を考えず駒を駒と扱っている。しかも、一度使われた駒は全て棄て駒だ。この戦闘に勝ち目などない。ただの時間稼ぎなのだ。
「畜生が、忍足侑士め……。思い通りになんかなりたくねぇ!」
現在の総隊長は莉磨だ。しかし使用許可証は莉磨のサインでは無かった。指揮官が変わったのは明らかだがそんな連絡は来ていない。だからといって非常事態宣言もされておらず空気の流れが異様だった。
― 冗談じゃない。
50口径の弾を完全な化け物へと連射し、ミサイルを落とす。しかし全て無意味。空中で受けとめられ潰される。それでもなお50口径弾での攻撃をやめず時折ミサイルを落下させた。しかしただの囮に過ぎない。狙っているのはミサイルを握り潰すために触手が塞がった瞬間だ。少しだけ上昇しそのまま垂直に落下する。止める触手がない今、がら空きになった本体に直撃する。戦闘機の爆破と共に急所が吹き飛ばされ化け物は動きを止めた。