80 決意
80 決意
構えを変え、刃を月光に光らせる。友浩は覚悟した。
「薙ぎ払え…雲乱」
大剣の見た目に大きな変化はない。友浩は姿勢を低く敵に向かった。速度は倍。ほぼ一瞬で相手の隙間に入り込み大剣・雲乱を振るう。攻撃を防ごうとした瞬間に進路を変更。
「アリスの魔剣…」
不意に相手が呟く。友浩は間一髪与えず刺す。滴る血を確認し引き抜いた。支えを失ったそれはくずれおちる。友浩は後ろを確認した。敬士が重い斬撃をくりだしている。火花が散り金属音が続く。敬士は仕掛けられた攻撃を避け最短距離を最速で走り抜け後ろへまわりこむ。腕の振りだけで首を斬りおとし一息ついた。
― 気付いてない……か。
友浩もまた一息つき、武器を隠すようにしまった。
カタカタとキーボードを打ち情報を集める。流れる情報を一瞬で目に通し必要最低限の情報のみ脳内に止めた。
「天瀬貴哉についての情報が極端に少ないです。それからいくつかの妖気が急接近してます」
竜一はあくまで事務的な口調で伝える。侑士は何も言わずただ頷いた。
― 莉磨には悪いと思うんやけど……実験は進めなアカンで。
ふっと眼鏡をなおし鋭い瞳を冷たく光らせる。
「日高直人を試験機体と共に出動させや。まちごうても莉磨には言うなよ」
「組織としての戦闘はしていないのにですか!?」
竜一はキーボードを打つ手を止め声を張り上げた。
「異常な妖気確認した、は事実やろ。組織の戦闘でもあるんや。……いや、組織の人間しかいないんやから組織の戦闘や」
竜一は何も言い返せない。竜一には何もいうことが出来ない。だからといって、はいそうですかと従えなかった。
「隊長命令や。ええな?」
竜一は少しだけ悔しさを交えた瞳を閉じる。一呼吸おきもう一度目を開けた。
「了解しました。日高直人に出動命令……」
一見、冷静な事務的口調で告げた。
アリスは薄く笑みを浮かべる。莉磨の言葉に皮肉を感じ微かな興味をいだいた。
― これはこれで面白い…。
「向こうのが面白かったかも知れんな」
一条に対してアリスは本音をもらす。
要するにもっと楽しませろ、と。
「人材としては格段に向こうがいいじゃないか。我が妹を打ち破った二つの名を持つ少女に逆襲の黒幕、逆襲の実験体が二つもか」
アリスは鼻で笑って見せる。一条は困ったような表情を見せた。
「君を蘇らせたのは?たしか妹のレイチェルも…」
「わかってるさ。だから造ってみただろう。新しい魔剣を」
アリスは嫌そうに舌打ちした。莉磨がこちらに向かってくる様子はない。何を考え、どんな行動をするのか、予測は出来ない。恐らく戦闘を終えたのであろう数名が莉磨の後ろに立った。