78 未練Ⅱ
78 未練Ⅱ
何もない病室で、玲音は治療を続ける。最も、性格に表現するならば何もないわけではないが。
「随分器用な事をする」
夏輝が無表情で扉によりかかり声をかけた。応えはない。
「飛び散った肉片をかきあつめて繋ぎ会わせるなんてさ」
夏輝の言葉にあわせるように背筋に寒気が走るような、悍ましさを秘めた妖気が膨れ上がった。
「久保さんには……死んでもらっちゃ困るから。……平山さんなら地下室に拘束されてる。行くなら行けばいい」
玲音はふっと一息つき流れだす汗を拭った。夏輝が小さくはなで笑う。
「もう行ってきたさ。勿論鍵も開けた。手枷も外したし……いつも通り貰ってくよ」
「リスク分はもらってかないのか?」
部屋を出かけた夏輝の足が止まる。
「いらないさ。莉磨さん達は音信不通。リスクなんて無いに等しい」
夏輝は振り返ることなく言い、歩みを進めた。
正直人前はあまり好きじゃない。殺しをしているところは誰にもみられたくない。例えそれが誰であっても。
恭悟はそう思う。重たい大剣を片手に持ち、構えることなく来たものを斬る。大きな動きはなく淡々とし背を預ける慎吾を一瞥した。苦しそうな表情をしてる訳でも嫌そうな顔をしている訳でもないがなんとなく、感じる乗り気じゃないとわかった。おそらく本気は出していないだろう。恭悟も同様であり、本気を出す気は更々なかった。
「勝てそうっすか?」
「無理だと思う」
予想外の即答に恭悟は表情を険しくした。
「本気を出すなら直ぐにケリはつく。でも……本気を出すような集まりじゃないから」
慎吾が苦い表情を見せる。恭悟は納得したように視線をずらした。
―確に…他人のために本気を出すような集まりじゃないよな。
考え溜め息がもれそうになるも堪え、僅ながら剣筋を変える。自分自身でも気付かないまま。
憲は攻撃を弾きつつまわりをみた。近くにいるのは捺輝と祐斗。思わず溜め息がもれた。ここ最近は不幸が重なりすぎている。戦闘厳戒態勢のためチームには戻れずまともに練習もしてない。好きな野球が出来ず嫌いな共同戦をさせられるしでなんとも言えない。
「ミラレタクナイ」
無意識のうちに呟いた。
― それでも…。
ふっと体重移動する。躯が勢い良く傾き地面すれすれまで低くなった。片手で大剣を振り上げ足を切り落とす。鮮血が溢れだすも憲は既にそこにはいない。後ろに飛び退き体勢を立て直す。切り落とした足はこま切れに。倒れる敵をさらにこま切れにし次の敵へとうつる。表情はない。感情もない。機械のように。