76 再戦Ⅳ
76 再戦Ⅳ
「戦いたいんでしょ?」
不意にとわれ広大は一瞬慌てた。
「いや、どちらでも」
広大はあくまで指示にしたがうと、そういう意思を見せる。
「侑士をこっちによんだ。私と侑士が一緒にいても意味ないから…」
一緒に来いと目線で伝える。広大は溜め息混じりに立ち上がり立掛けた長身の日本刀を持った。
「情報はインカムから。報告だけは忘れずに」
インカムを各自セットし部屋を出る。暗い空の近くを走り抜けた。
「どうだ?」
高みの見物とやや冷たい空気にさらされる中、アリスは問う。
「まだ。メインディッシュは来てない」
一条がうっすらと笑みを浮かべた。
運がない。
そうとしか言えなかった。
「不幸だな」
ふと敬士は呟き大剣を振るう。敵は二人。ただし元隊長。
「いつも後輩の足元にホンキで突っ込んでくるからですよ。自業自得」
近くで同様に戦う友浩がケラケラと笑った。
「ヒロもな!」
火花が散り甲高い音が響く。砂埃が舞い鮮血がたれた。敬士と友浩が背をあわせる。
「人前で本気は出さない……か。……徹底してるよ」
一条の呟き。二人が同時に、地を蹴った。
無心に作業を進める竜一に侑士がそっと触れた。ぴくんと背を動かしそっと息をはく。
「いつから……」
「ついさっきや。状況は?」
侑士が珍しく真剣に問うた。竜一は頷く。
「良いとは言えないですね。こちらの戦力は元を含め第5席が四人、隊長格が六人、その他席官が四人です。それに対し敵は三十前後。どれも上位席官クラスであり、元5席が混じっているとなると……」
竜一が言葉を濁す。侑士が鼻で笑った。
「リフと碧人を救護で待機の指示はちっと誤算やったんとちゃう?莉磨」
その場にいない莉磨に問いかける。嘲笑うような表情を見せ味方であると同時敵であるような、そんな冷たさを感じさせた。
インカムからもれてきた問いに苦笑する莉磨。口ぶりからして聞こえてないと思っているのだろう。
「少し遅れた。状況を改善する必要がある。自分の戦いに集中して!」
莉磨が叫ぶように言った。広大が舌舐めずりするように手に持った日本刀を引き抜く。月光が長い刀身にあたり刃を光らせた。広大が呼ぶ。
「打ち砕け……シリウス」
黒ずんでいた刃は濁りのない銀に。広大がうっすらと狂喜的な笑みを浮かべた。