73 再戦
73 再戦
いたって静かな朝を向かえた。莉磨は微かな気配に起き上がり隠しナイフに手をかける。
「自室には入らないでくださいと言ってあったはずです」
「申し訳ない。しかし緊急報告です。
竹内海斗が死亡しました。陸斗はすでに回復し先程意識を取り戻した稲田竜一と共に最終治療を行っています。第一発見者は陸斗でした」
黒を身に纏う男は一切の感情が感じられない事務的口調で言った。
「本題にはいって」
莉磨はせかすように少し表情を歪める。
「はい。
昨晩から天瀬由哉と貴哉の行方がわからなくなっています。それから荒木渉の死体が紛失していました。その場にいたはずの桜井ゆかりも」
男が目を閉じる。莉磨の手に力が入った。
「やつあたりするほど馬鹿じゃないよ。ただ……詳しく説明して」
「はい。
まず竹内海斗ですが昨晩、胸を大剣にて貫かれていました。恐らく即死です。抵抗した痕跡は一見みられませんでした。そして本日未明に死体が紛失。いまだわかっていません。凶器と思われる大剣はその場に置かれており、刀身には「何度も殺す」と掘られていました。
荒木渉ですが、東野だと思われる死体とそのほか血痕を残し消えていました。
天瀬兄弟についてですが、昨晩一緒にいたはずの方からは何も。というより、一緒にいたことすら忘れているようでしたので何者かが意図的に記憶を作り替え連れ去ったものと思われます」
男は淡々と事実をのべる。莉磨は微かに険しい表情を見せた。
「久保の様子は?」
「回復の目処はたっていません」
莉磨は瞳を閉じ考え、やがて決心したように口を開いた。
「あれを招集してください。二の舞にはしない」
「本気ですか!?」
男が一瞬うろたえる。莉磨は頷くことも首をふることもしない。男は小さく溜め息をついた。
「わかりました。すぐに」
「ソラトのほうには伝わらないようにね」
莉磨はベットを出て裸足で立ち上がる。男が一礼し物音一つ立てずに部屋を出ていった。
一条は斬りおとされた左腕の傷口を塞ぎきり溜め息をついた。
「再生しなくていいのか?」
緑髪の女が一条の前に立ちうっすらと不吉な笑みを浮かべた。
「知ってるだろう?アリス。再生は苦手なんだ」
アリスと呼ばれた女は薄きみ悪い笑い声をあげる。
「死者の複製と復元は得意なのになぁ」
アリスはちらりと少し離れた場所に寝そべる六人を見た。
「東野はさすがに無理でね。あそこまでバラバラだと…」
一条は小さく肩をすくめる。
「何故、桜井ゆかりと天瀬兄弟を殺さない?何故、竹内海斗を中途半端なカタチで……」
アリスは目をほそめ一条を見る。一条はただ笑みを浮かべ答えなかった。