67 緊張と安心Ⅵ
67 緊張と安心Ⅵ
正直なところ、空気は二つに分かれていた。
飲み放題騒ぎ放題の矢野と平山と久保。若干無理矢理感がまじりつつ飲む由哉と広大。アルコールの苦手な慎吾と飲めない刹那と由哉の弟・貴哉は面倒な三人の相手をしつつ大変そうな二人を見る。淋と憲は全く違う緊張感のある空気を纏っていた。
「憲は飲んでる~?」
あきらかにべろべろな久保は憲に問掛けた。
「飲んでますよ」
たいした量はのんでいない憲は無表情でこたえる。
「二日酔いがキツソウ」
淋は素直な感想を小さく言う。憲は聞き取ったのか「まず家にかえれないだろうな」などと呟きかえした。
「なんできたの?」
憲の右手に握られたグラスが氷とぶつかり小さなおとをたてる。
「最後の気分転換ですかね。………勝てる気しないので」
淋は無表情のまま言う。しかし声には切なさがこもり甘い響きをうみだす。
「でも……私は自分からこっちがわに行くことを望みました。今更許されないです」
凛としたやけに大人っぽい、外見に似合わぬ声。
「時間だ」
憲はポケットの中で振動し始めたケータイを取りだし内容を確認する。
「やはり本郷先輩と荒木先輩は……いや、陸番隊全員に見張りをつけてますね。慎吾さんには刹那さんが。ほかは大体陸番隊舎にあつめて早川さんが見張りでしょうね。瀬田玲音は守護についたみたいです」
「みたいだね。実質動けるのは…」
「あなただけです」
淋ははっきりと憲にしかきこえないこえで言った。憲は軽くうなずき財布から万札を取りだし丸めて伝票入れに入れる。
「行くよ」
憲は意思表示するのが苦手だ。もともと感情をうまく表現できない。それでもその言葉には強い意思が込められていた。
収集室には二人きりだった。
とくにはなすこともなく沈黙が続く。ルナはそっと目を閉じた。このまま寝れればいいなとは思うが先ほどまでフル回転していた頭はいっこうに休もうとしない。
「学校はどう?」
不意に声をかけられ言葉の意味を理解できていなかった。フル回転していた筈の思考が一時停止した。
「やめたの?」
竜一にもう一度問われ息をはきだすようにルナは言う。
「夏休みが終ったら……あと一週間たったら……学生じゃなくなる」
ほんの少し残念そうに言う。心残があるように深いため息と共に。
「せっかく隼斗くんに勉強教わったのにな」
涙混じりの声で、しかし竜一もルナ自信もなんでかはわからない。