64 緊張と安心Ⅲ
64 緊張と安心Ⅲ
零番隊舎の隊長室はクーラーがききすぎているのか、ジャケットを着ているのに寒気がする。しかしこめかみから頬を汗が伝い呼吸数が多い。緊張しているとわかる。目を閉じほんのすこし上をむく。
「なにもなかった………それが一番なのかな」
未来が見えたわけじゃないのに一人呟く。無意識のうちに机に肘をつきまるで祈るように手をくんでいた。
疼く。
身体が疼いている。いや、疼くと言うより飢えている。喉が乾く様に戦いを、血を、求めてる。
「クソ……」
∮型のペンダントを汗ばんだ手で握り締める。
「今夜か……」
ベットの中で蹲り真っ白なシーツに爪をたてた。そしてそのまま引き裂いた。
銀色の刃は迷いなく眉間に飛び込み目の前で止まった。いや、とめられた。
―…手……?
刃をとめたのは指の長い色っぽい手。
「あ………はや…かわ…さん…?」
淋のとなりに立ち息をあらくしこめかみから汗を流す拓也。侵入者は剣をひく。拓也はあっさりと大剣をはなした。侵入者は窓から逃げだす。緊張が途切れたのか淋は一瞬ふらつき体勢をととのえた。
「大丈夫です」
支えようと手を伸ばす拓也に言い無理矢理に笑顔をつくる淋。
「竹内くんは……怪我無い?」
無理矢理な笑顔を拓也から海斗に向け淋は問う。海斗は無言で頷いた。
ベットの上で右手にもった野球ボールを手首だけで投げてはキャッチする。天井すれすれに上がり落ちてくるボールをキャッチしもう一度。
「仕事か……」
異常な妖気の上昇に確信し呟く。久々の仲間殺しをしなければならないと。しかし悲しさは特にない。
「二軍に落ちて…仕事して…また戻る。どれくらいだろうか…?」
呟き、投げたボールが天井にあたり音をたてた。
「やば…」
落ちてきたボールをとり枕元におく。上には誰もいないから平気だろう。試合前には球場に行かなければいけない。最後の試合かもしれない。なんせ相手は陸番隊の隊長副隊長だ。死ぬ確率は高い。
そんなことを考え、ベットから立ち上がり全力投球のフリをする。風の抵抗が少し気持よくて、それに浸り大きく息をはいた。