62 緊張と安心
62 緊張と安心
いつもよりもはるかに静かな本部内。西本部や東本部などそれぞれをあけ全ディセントが中央本部に集まっている。腕には喪章がまかれ本来なら白石が立つ場所には弐番隊長である天王瞬弥が立っていた。
「零番隊長は白石水輝に変わり同隊元第3席の架聖莉磨が入る。第2席には紅夜捺輝、3席には暁ロイ、4席には村中恭悟、5席は白水刹那、14席には早見淋、以上が固定となる。また、壱番隊長には同隊元3席の桜葉広大。参番隊長には同隊元2席である鳳敬士。陸番隊長には同隊元3席荒波慎吾。求番隊長には元壱番隊長である忍足侑士が入る。他各隊空席が多量のためおって伝える。以上」
集会室を出て各隊舎へと戻る。刹那の足取りはゆっくりで、しかし危なげが残っている。海斗にさされた脇腹は時折痛み、覚悟をきめた、しかし今にも泣きそうだった海斗の瞳を連想させる。
「なおってないのか?」
不意に後ろから声をかけられ息をのむ。振り向けば最近は顔すら会わせていなかった兄―広大がいる。
「肆番隊も質番隊も忙しいの。だから自分でなおそうかと思ったんだけど……」
刹那は困ったような表情をみせ軽く脇腹をおさえる。広大は無表情のまま刹那を見つめる。それきり言葉ははっしない。
―お兄ちゃんは変わらないな。
刹那は思う。兄が大好きだと。昔から兄は刹那に対して無関心だ。遊んでくれないしましてや話しかけてくるなど殆んどない。それでもみていてはくれた。
―莉磨様にはいろんな表情見せるクセにさ……。
刹那は無意識のうちに呆れたような寂しそうな表情をもらした。
一定のリズムを刻む機械音。ベットに眠る陸斗。眩しいような気がする日差しが椅子に座る海斗を照らした。
「兄ちゃん……」
海斗は戦闘服のままその部屋に入り浸る。何をしたって目覚めるわけじゃない。無駄だとわかっていても離れられなかった。
「……」
それを無言のまま鋭い視線で見続ける拓也。見えるのは白い薔薇の描かれたジャケットと細いと感じる首筋。
「…なんで………」
海斗の小さな呟きが聞え意図をしっている拓也は言ってしまおうかと口を開くがやめた。それが優しさなんてものじゃなく甘さだと自分でわかっていたから。昔莉磨に言われた言葉が頭をよぎったからやめた。
陸番隊舎には不穏な空気が漂っていた。
特に慎吾は珍しく厳しい表情を見せている。信頼していたはずの隊長副隊長共に一言も何も言わず消えたのだから。
夏輝はこの重苦しい空気に耐えかね窓を開ける。心地のよい風が入り込みカーテンを揺らす。まだ暑さは残るが少しずつ秋へと進んでいた。