6 早見淋
6 早見淋
選手一人ひとりの情報などすでに頭に入っていた。無論、個人で調べられる程度の量ではなく詳細なデータとして受け取ったものを丸暗記しているだけだ。けして莉磨の実力というわけではない。
「篤史!」
本人の申告により今日は登板しないと決まっている早見篤史と外へ出かけるのは初めてか。とはいえお気楽な雰囲気ではない。
「出かけようなんて珍しいじゃん。いつも捺輝がいるのに」
基本的に莉磨は捺輝と行動することが多い。が、今日はいない。必要ないと思うと同時、あまり気のいい話ではない。捺輝にとっては、という限定になるのかもしれないが。
「…どうしてもききたいことがあって」
「何?」
まだ5月になったばかりだというのにもう暑く、日差しが眩しい。にじむ出す汗が服を濡らし肌に張り付く。
「零番隊に新しい子がきた。早見淋………関係なくないよね」
「どう思う?」
はぐらかすつもりか、どうなのか。篤史の返答はいたって平然と、淡々としていていつも通りといえばそれまでなのだろうが莉磨にとってはやりずらい。たとえるなら一ターンにつき一歩という原則てきなルールを簡単に壊され相手のターン中にすすまれている様な感じか。
「あれは誰の子供なの?」
木陰にある椅子に座り缶ジュースを飲みほす篤史。
「うん、知り合いの子供。わけありかな」
缶をゴミ箱に投げ捨てる。篤史に隠す気はさしてないのか、確信を持つことはできない。
「気配が普通じゃない。ありえない存在とでもいうのかな…。記録では身体能力や特殊能力などは平凡で、目立ったところがないハズなのに再生もできてあんな戦闘して…」
「だろうね」
篤史は何を思って相槌を打ったのか。早くこの話を切り上げる気なのか、それとも自分にとって最も触れられたくない部分を隠し通すつもりか。
「今は任務中か……」
篤史は東側を向き呟いた。そう、結局篤史は莉磨にとって知りたいことを教えないつもりのようで何一つ答えてなどくれない。
体育際の近付く気持のいい朝。五月らしい、というのが淋の感想だ。夏よりもきつい日差しが肌を焼いている。
「おはよう。竹内くん」
「はよ」
ほんの少しそっけない挨拶か。告白されたことによりお互いに緊張が走っているのかもしれない。淋にとっては状況が好転したといえるか。
「楽しそうだね、淋は」
後ろからゆかりに声をかけられ少しビクッとした淋。かすかに漏れた笑みを見られたのだろうか。
「そうかな」
荷物をおき、水筒を持って体育館へと急ぐのがいいか。軽い足取りで教室を出た。
風が吹き荒れてきたのは気のせいか。木が揺れ空が雲に覆われているような気配に身を震わせる。背を伝う水滴はただの汗ではないだろう。
「彼女は何?誰の子供なの?」
莉磨は再び、直球的に返答を求める。篤史から目をそらさない。
「それって重要?莉磨なら直ぐに気付くと思ったけど……」
莉磨の問い詰めを冷静に、淡々と、平然と、さも当たり前のようにかわす。はぐらかしが通じないと理解した時点で押し込みへと手段を変えたのだ。
「能力を持ってうまれそうな族は皇族の紫紋、美月、紅桜、貴族の海王、煉獄、冥王、天王、天瀬、緋桜、二神、武家の火煉、水蓮、木暮、樋内、桐生の15家。この中で再生の出来ない天王、天瀬、火煉、水蓮、木暮、樋内が除かれ当主がいる家を除くと紫紋と緋桜の2家。紫紋はもう見つけた。彼と淋に繋がりがあるとは思えない。と言うことは緋桜?」
莉磨は篤史を見つめ、篤史は莉磨から目をそらした。