56 トラブル
56 トラブル
ほぼ全ての受験生が三つのチェックポイントを通過したころ竹内海斗は一人東門の前にいた。側には白石が立ちこちらを不思議そうにながめている。パートナーは既に本部棟についており問題はない。
「どうかしたか?」
白石の問いを無視し東門にそっと手をかける。手では開けることが出来ないのは知っているがそっと力を入れる。開くはずないと思っていた門は開き多量のフォリンが流れ込む。海斗は門から距離をとり支給された日本刀を手にとる。
「竹内海斗!なぜ?」
白石の問いに海斗はいたって冷静に答える。
「俺は兄ちゃんが……」
「!」
白石は思い付く。まさか、シエルが余計な何かを吹き込んだのではと。
しかし気付くのは遅くシエルは覚醒姿で目の前にいた。
隼斗の目は紅く変化していた。本来のチカラが暴走しそうになっている。
―こんなところでこんなチカラを出してはここが壊れる……。
唇を噛み締め押さえ付ける。ひたすら自分にいい聞かせるがほぼ無意味。
目の前に恐ろしく美しく整った顔をした少女はたっていた。
竜一はキーボードを叩く。由哉は敷地内全土に指示を出した。
「緊急のため僕が指示を出します。東門より多量のフォリンが本部内に侵入。参、伍番隊の警邏班は敷地外のフォリンの殲滅をお願いします。捌番隊の方はこれ以上入らないように呪壁を!他は訓練生の保護を中心にとフォリンの殲滅をお願いします」
由哉は独断で漆黒のケータイを手にとりソラとへと連絡する。裏切りに値する行為だとしても必要だと判断したために。
淋は刹那と共に南門と西門の中間地点へと駆け付ける。大蔵は一人で戦っていた。回りには数名の訓練生の死体。
「盾!」
淋は叫ぶように言い大蔵とフォリンの間に呪防壁をつくる。刹那は言魂一つ使わずフォリンを爆破した。
「私は東へと向かいます」
刹那は二人を残し走っていく。淋は大蔵へと駆け寄った。
「怪我は?」
大きな傷はなくかすり傷が目立つ。大蔵は淋を強く押し退けた。
由哉の電話は運よく繋がる。状況を説明するがソラトに焦った様子はなくただ一言。
「心配しなくてもすぐ近くにいるよ」
ただの遊びのような声は由哉を黙らせた。言葉は続かず電話をきる。焦ることも出来ず放心状態へと陥りそうでただひたすら考え続けた。