53 企み
53 企み
重い空気の漂うなか竜一はそっと手をあげる。
「あのぉ、アリスの魔剣が……」
「!」
その場にいた殆んどがアリスの魔剣という言葉に反応し表情を変える。
「アリスの魔剣。それはアリス・ミョルニルが禁術を使い作り出した武器。実に30本も作り処刑された」
「シエル達がどれ程持っているのかが全く把握できていません」
竜一の言葉に空気は変わりさっきとは違う重さになる。アリスの魔剣は強大であり持ち主のチカラを最大限に引き出す。
「危ないね」
無表情の捺輝はただ無意味に呟く。
「一番から五番は試作品だろうから大した強さはない。六番から十二番は強度を中心に、十三番から十八番は強度と攻撃性、十九番から二十一番は能力、二十二番から二十六番はオールマイティ、二十七番から三十番は使い手を中心に設計され作り出された。こちらが多量に所持しているとはいえ…」
莉磨が微かに表情を歪める。捺輝は変わらず無表情だった。
小さなその躯を巨体へと変化させる。
覚醒。
ある程度の家柄に産まれればついてまわる血肉への欲望。シエルはそれを受け入れ自ら真の化け物へと変わり果てた元組織に所属していた者である。
躯を巨体へと変化させ近くにいた小さな少女をウヨウヨと多量にある長い手足で捕え口のなかへとほおりこむ。バリバリと骨を砕きクチョクチョと内臓を味わう。ごくりとのみこみ舌舐めずりし小さな姿へと再び戻った。
「もう夏の試験か……楽しみだなぁ」
企みの笑みを浮かべ歩き出し呟くシエル。異質な空気を漂わせ何人たりとも近付けずそれは警邏班にとって不運としかいいようのないものであった。