50 冷徹な消しⅣ
50 冷徹な消しⅣ
夏輝に連れられ中央地区の端、そこにソラとはいた。中に浮かぶソラトを見上げるように莉磨は上を向く。ソラトはただ笑みを浮かべていた。
「久しぶりね。ホント」
莉磨は無表情で声にも感情は感じない。いわゆる棒読みと言うヤツだ。
「確かにね。それで?シエルを倒すのにどうするの?」
ソラトは、最初から目的をわかっていたように莉磨へと問いを投げ掛ける。
「組織は使わないわ。私の手持ちの戦力とソラトの手持ちの戦力を使えば潰すぐらいどうってことないと思うけど」
莉磨はうっすらと笑みを浮かべた。ソラトはそれに答えるように更に頬の筋肉をあげる。
「でかくなる前に潰す………か…」
ソラトは呟くように言った。
扉をけやぶり息をきらしながらも外へと出る。たいして目がよくないので1㎞先など見えない。基礎術で宙に浮き適当に1㎞ほど進む。小型ヘリが一台上空待機をしていた。捺輝はヘリへと乗り込み陸斗をゆっくりと椅子に寝かせる。そのとなりに座り大きく溜め息をついた。
「疲れた……」
消えそうな小さな小さな声で呟いた。
「ねぇ、莉磨」
ソラトは帰ろうと動きだした莉磨を引き止める。
「ん?」
莉磨はくるりとふりかえりやはりソラトを見上げるような体勢となった。
「僕の記憶が正しければ早見淋の体育際当日君は、二才で両親を亡くし早見篤史にひきとられたと言ったよね?」
「えぇ、そうね」
莉磨はあの日、確にそう言った。莉磨にとってはそれが真実だ。
「早見淋誕生5日後両親死亡。……書類にはそう記載されていた。僕は夏輝にそうきかされたけど」
「……」
莉磨は無言でソラトを見つめる。重たい空気を纏うように沈黙は広がる。夏輝がゾッとするほどお互いに強く見つめる二人。
「そうね……」
莉磨は薄く唇を開きそっと小さく言葉をはっする。小さくてもこの静かすぎる場所には十分だ。
「死にかけてた二人を能見篤史と共に保護した。ただ……緋桜家先代当主の傷は直しきれなかった上にその妻の意識は戻らず二年後に死んだ。書類上空白の二年間は私と過ごしたことになってる」
まるで呟くように小さな言葉と光のない莉磨の瞳。
「実際は…一年もないんだけどね」
消えそうな淋しそうな声は小さく響きそっと消えゆく。夏輝は莉磨から目をそらした。
「ふーん、まぁいいや。戦力は夏輝を通して伝えるから」
感情の感じられないソラトの言葉をきき莉磨は歩き出す。傾き始めた日を背に、風に髪を舞いあげて。