49 冷徹な消しⅢ
49 冷徹な消しⅢ
無言になりベットから出ようと手に力を入れた。しかし莉磨がそれを許さなかった。莉磨は夏輝の胸の中心に掌を当て無理矢理押し倒した。
「…っ……」
手に力を入れた痛みか、莉磨に押された痛みか、倒れたときの痛みか、それとも全てか。夏輝の顔が苦痛に歪む。莉磨は涼しい顔をして言った。
「淋なら無傷。ただしアンタが重傷。今さっき真名を使って無理矢理引き起こした」
「!」
真名という言葉に夏輝は反応した。
「らしくないね。いつもはポーカーフェイスなクセに」
莉磨はおもいっきり皮肉を込めて言う。夏輝は無表情になり莉磨を見ている。
「ここに誰も居ないのは追い出したから。治療は碧人が行った。最初は邪魔だしTシャツも脱がそうとしてたみたいだけど脇腹のシルシに気付いたんだろうね。……心配しなくても誰かに言うようなヤツじゃない」
莉磨はただいい、夏輝はその莉磨の言葉を信じるらしい。それ以上は何も言わない。
「その左足は……直したほうがいいの?」
笑みを浮かべているのだろうか。夏輝に寒気が走る。しかしそれも一瞬。
「随分変わりましたね。昔は自力で直せって言ったクセに」
「まぁね。でも性格に変わりはない。表に出すか出さないかなだけで」
莉磨が微かに笑った。
捺輝は既に別件任務に動いていた。送り込んだスパイ・竹内陸斗の回収及び城内の調査。竹内陸斗の回収なんてほぼ死体を回収しに行く感覚だ。通信が途絶え求番隊のPCプログラムから生命反応が消えたためと捺輝の気分だ。
「莉磨には悪いけど死体がいいんだよね。ラクで」
と言いつつ今まで入った部屋の中でもっとも広い部屋へと天井から出る。捺輝の予想では死体が広がり紅く染まるシエルの部屋のはずだ。
「アタリ」
ただ無意味に呟き見渡し竹内陸斗を見付ける。
「無線を使ってバレるかコレ抱えて逃げるか」
微かながら息があり原形も止めている。殺すかと考えがよぎるが原形が残った状況ではまずい。し莉磨が嫌がる。
「……由哉」
「はい。どうしました?」
いつもの声が不思議そうに返ってくる。
「ヘリを一台こっちに飛ばせ。ここからイチキロ離れた場所で待機させておいて」
それだけいって無線を切る。耳からインカムを外しポケットへとしまった。警報がなっているのがわかる。うっすらときこえる騒ぎ声。捺輝は一息はきまだ息のある陸斗を右肩にかけるようにのせた。
「あと10秒…………」
捺輝はそっと目を閉じる。姿勢を低くし力を足元へとためる。
扉が開いた瞬間、走り出す。敵陣の間をすり抜け廊下を駆け抜ける。左にまがり出口を目指す。しかし行きは天井からだったので道のりではわからない。
あくまで直感。
覚えておけばよかったのだがまさかこんなことになるとは思っていなかった。