47 冷徹な消し
47 冷徹な消し
広大がまだ意識を取り戻さない。しかし莉磨は安心したように微笑む。その姿にリフは少し驚いた。今まであれほど優しく笑う莉磨を見たことが無いから。
「リフ!」
名を呼ばれリフは表情を戻し頭をさげた。
「かしこまりました。お任せください」
リフは莉磨をわかってる。言葉などなくても伝わる。莉磨は今から夏輝の元へ行くだろう。そしてソラトと手を組むように仕向ける。それをするだろうと。
「相変わらずあの人は…」
リフは一人苦笑した。
淋がそっと瞼を持ち上げる。目をきょろきょろさせ状況を確認し起き上がった。
「痛みは?」
隼斗の問いに首をふる。扉が二度ノックされ開いた。
「莉磨…」
隼斗が名をよぶ。それと同時淋は眉間にしわをよせうつ向く。
「碧人……治療をやめて」
莉磨は二人に見向きもせずいう。
「……」
碧人は無言で立ち上がる。
「心配無い。あとは私がやる。それから席をはずしてくれるとありがたい。信用とコレとは別問題でね」
莉磨の言葉に碧人は表情を険しくする。淋はベットを出て莉磨と同じカタチの服を莉磨に見せるように立った。
「今更の上にこんなときだけど……」
淋は一言いって部屋を出る。隼斗はそれに続く。碧人はまだ一歩も動かない。
「…予想外だ。…真名を使うのは…」
碧人は言いかけやめる。首から腹のあたりまではほとんど緩みはなく腰の上の切目の入ったよこからあたりから広がる青いスカート、それを着る莉磨。恐ろしく整った顔は昔と変わらない。
「胸下の薔薇の刺繍と…スカートの色が変わった…」
碧人は呟くようにそんなことを言う。
「紫のほうが似合う」
碧人は莉磨の横を通りすぎ部屋を出る。小さな機会音を気にすることなく莉磨は夏輝に呼び掛ける。
「悠真……」
切ない声は響かず空しく消えた。
試合開始までまだ時間はある。何かあったであろう淋の妖気の震えと今はもうないが莉磨の妖気の動揺。はっきりと感じた巨大な妖気と消失した小さな妖気。今からなら間に合うだろう場所。
「……」
ロッカールームで眼鏡もせずコンタクトもせず考えていた。
「どないしたん?疲れとるんか?」
声をかけてきたのは久保。篤史はただ首をふった。
「…」
久保は後ろから抱きつく。篤史の反応はない。
「いつもは嫌がるんに!つまらん」
篤史から離れあえて大きな声で言う。
「どれどれ…」
近くにいた矢野は面白がり篤史の頬を触る。篤史はとくになにも言わない。ただ眉間にしわをよせていた。
「無言でメッチャ怒ってるやんけ!」
矢野は久保に隠れるようにさがる。
「ほらほら行こや…あんま遊んでると怒られるよ?」
優しいなまりのある言葉を話す平山。平山の声かけで外に出るチームメイト。篤史はあえて動かない。
「相談ぐらいしてや。莉磨と関係あるんやろ?」
平山の問いに篤史は薄く唇を開く。
「俺は……」
まだただのチームメイトが知らないこと、広大以外しりえないであろうことを口にした。