46 被害報告Ⅱ
46 被害報告Ⅱ
肆番隊舎の第二集中治療室で碧人は夏輝の治療に専念していた。機械に繋がれ酸素マスクをつけられた血がべっとりとついている夏輝に手をかざし目を閉じ本来のカタチを脳内でつくり言魂を唱える碧人。蒼い光が広がり少しずつ治療が進む。近くのベットに寝そべる淋は意識がないだけでほぼ無傷。服や肌についた血は夏輝のものだ。
まだ治療は終ってないが碧人は手をとめた。淋のとなりで椅子にすわり寝そうになっている隼斗の方を見る。
「隼斗……淋の意識を取り戻させてくれない?俺ひとりじゃ無理だ」
碧人が溜め息をつくように言うと隼斗は無言のまま淋の額へと手をかざす。目を閉じそして隼斗は言う。
「莉花……」
呟くような、唱えるような、そんな声で言われた言葉は淋の真名。隼斗のしたことは、真名を呼ぶことは、そのヒトの意識へと入り込むということであり相手を縛りつけると言うこと。すなわち、深いねむりにつく精神を無理矢理よびもどすということだ。それをなんの躊躇もなく行う隼斗。碧人は目を背け治療を再開した。
ゆかりが小さな棒読みの笑い声をあげる。泣きそうなゆかりに対し渉は元気そうだ。身体に異状はないらしい。
「いつから……」
「最後のほうしか聞いてないから……」
渉はゆかりの問いを遮りベットを出る。すぐ隣に置いてある着替をとり切傷だらけの服を脱ぎ上だけ着替える。紫色の薔薇が描かれた茶色のボレロのようなジャケットを着る。
「家は?」
無表情で感情の一切無い声がゆかりへと向かった。
恭悟は勢いよく上半身を起こした。脇腹に痛みが走り一瞬顔を歪める。莉磨はゆっくりと問う。
「平気?」
恭悟は少し間をあけ、薄く唇を開いた。
「平気」
小さく答え包帯にまかれた腹をみる。うっすら血が滲み錆びた鉄の香りと甘い花の香りが鼻をつついた。
流れるような栗毛をかきあげ膝まづく。目の前にいるのは金髪碧眼の少年。
「回復に思いの外時間がかかり……申し訳ありません」
「問題無い。夏輝にシエルを潰すことは出来ても莉磨を潰すことは出来ない。まだ時間じゃない」
少年は足をくみ頬杖をつき笑みを浮かべている。自信ありげな企みのそんな笑みを。