4 任務の意味
4 任務の意味
予想通りとでもいうのか、莉磨にとってこの状況は想定内の出来事だ。久々の感覚ともいえるであろう狂気的で快楽にも近い妖気を身が感じる。
「レベル16タイプE。一体だけかな」
「結界張っとく?」
「無意味だと思う」
賑やかな球場内では周りに話声など聞こえてない。感じる気配に身を研ぎ澄ませ目を細める。
「来る?」
「まだ」
グランドに固定された瞳には試合展開など映っていない。
「来たらどうする?」
「呪術で観客の動きと意識を停める。選手はどうしようもない」
莉磨は高等呪術師だ。対フォリンを目的とした特殊戦闘法である呪術は呪力と引き換えに仕様が可能となる。呪力をもちそれを戦闘に活用する者は呪術しという区切りに入れられ、基本的には動作や言霊といったことを経由して発動させる。高等呪術師とは呪術を発動させるのに本来必要な《印を切る》という作業や《呪操具》・《呪符》をなしに発動することができる者の区切りとされる。
「きた」
上からおおきなそれは降ってきた。
フォリン。
「莉磨」
「うん」
スタンドをうめつくす観客達の動きがピタリと停まる。特殊結界呪術。
「な……なんだ?」
空からふってきたフォリンの姿に試合が一時中断される。驚きと嫌悪、恐怖の表情がそれぞれに浮かび叫びをあげる余裕もない。
「フォリン出現により今から我々ディセントの指示にしたがってもらう。全員すみやかに壁際に!」
莉磨は指示をだし高いネットをこえ、グランドないに入る。捺輝もそれに続き動く選手陣を背に立つ。
「ミツケタ……チカラ…」
人と同じかそれ以上の大きさを持つ鳥型フォリンが言葉をはっする。迎撃態勢を取りつつ言葉が通じるのであれば会話に応じるのが妥当か。
「なんのチカラを求める」
捺輝がすぐさま問う。
「チカラ…チカラ…チカラ……」
フォリンの視線は莉磨でも捺輝でもなく別のところへと向いていた。言葉すら受け入れていないのか。それとも通じていないのか。
「!」
フォリンは一瞬で二人の視界から消えた。
フォリンは平山の目の前にいた。巨大な体躯には似合わぬ速度で迫り二人の反応は遅れる。
「平山さん!」
敬士が剣をつくりだす。一歩で追いつける距離か、いや反応が遅れている。間に合わない、直感でそう分かってしまった。
「あっ」
平山が顔を背け目を閉じる。反射的に両手で頭を守ろうとしていた。全てがスローモーションになったように感じる。ただ単に自らが追いつけていないだけだろう。
瞬間。
白い光がフォリンを貫いた。一撃の速度は光。フォリンが吹き飛ぶほどの威力をもった理解不能の攻撃。
「え?」
唖然としている。困惑と安堵の表情が浮かびへたり込んだ輩もいるか。
誰が何をしたのか。
「組織が必死になる理由」
「コレだね」
ざわつくグランド、理解不能の状況に目をみひらく敬士、見抜いたのかそれとも虚勢か薄い笑みを浮かべる煉夜。平山の隣にいるのはだれか。
「莉磨!」
「慎吾……」
ベンチから組織陸番隊員・荒波慎吾が慌た様に走ってくる。状況が飲み込めていないのか焦りを感じる。
「なにが起こったの!?」
「平山進次が……覚醒した」
質問に対しての答えとしては不十分だろう。ただし自分の中で状況をまとめるという点については十二分だ。今の攻撃は莉磨のではないしましてや煉夜などあり得ない。
「?………わかりやすくいうと?」
「これほど強大な妖気を隠し続けて生きてたなんてね…」
慎吾の問いに答えている暇はない。それどころではないのだ。はっきりと組織に確認を取る必要があるか。
「隠すの?」
「それがいいかも」
面倒そうに捺輝が溜め息をついた。