memory3 夏輝
memory3 夏輝
春。
入隊試験に合格し陸番隊への入隊が決まった。
陸番隊には天才と、殺し屋と、そう呼ばれる不動の第5席がいた。その中に飛込むのは正直気が引けた。いくら14席という地位を貰えるとはいえそんな中にいるのは居心地が悪いような気がした。
「新しい14席の子?」
後ろから声をかけられ驚き振り返る。そこに立っていたのは人形のように整った顔の少女。気配はまったく感じなかった。
「そうです」
少女の纏う圧倒的な力の差を感じる空気に飲み込まれないようにと夏輝は気を強くもとうと答えた。
「第5席の莉磨よ。ヨロシク、本郷夏輝クン」
少女―莉磨は無表情のまま言う。夏輝はその言葉すらも刃に感じ言葉をかえすことは愚かその場に立つことも苦しかった。
早朝、なれない隊舎を出て食堂へと向かう。人はおらずつくりおきされたパンをかじり訓練室へと向かう。まだ長袖一枚では肌寒いが気にしない。訓練室と書かれたプレートが少しかすれている扉をあけ中へと入る。広い部屋の端に恐ろしく美しい顔立ちの莉磨が足を伸ばし地に座っていた。
夏輝は次の一歩を踏み出すことが出来ずその場に立ちつくす。ピンとはった、おもわず魅せられるような空気をわることができない。
「入るなら入れば?」
莉磨は夏輝の方を向かず呟くように言った。それでも夏輝はそっとその一歩を踏み出す。中に入れば空気になれスムーズに進むことが出来る。莉磨の前まであるきピタリと足をとめる。
「14席は5席に殺しをならえと教わったんですけど……」
恐る恐る発する言葉に莉磨はすらりと答えた。
「らしいね。でも剣術って得意な訳じゃないし教えることないと思うんだよね」
今日の莉磨は昨日のような空気ではなくただ冷徹な空気を纏っている。しかし異質なことにはかわりがない。
「しりたいんだったらみて学べばいい。どうせ暫くは一緒だろうし」
莉磨は面倒そうに諦めたように言った。
昼。昼食を食べ終え訓練室の中へと入る。その中にはやはり一人しかいなくてやはり、広い部屋の端に恐ろしく美しい顔立ちの莉磨が足を伸ばし地に座っていた。ただ今回はイヤホンをして音楽をきいているらしい。若干音がもれていた。
「何をきいてるんですか?」
夏輝はやはり、恐る恐る話しかける。莉磨はイヤホンをはずし言った。
「笑わない?」
「?」
莉磨の言葉に夏輝は疑問しかでてこなかった。
「たぶん……」
夏輝はそう、小声で答える。
「ラブソング」
莉磨がボソリと呟くように言う。夏輝は意外なそれに驚いた。しかしそれは一瞬のこと。あぁなんだ、この人もヤッパリ人間なんだ、とあたらめて思いなにか気が軽くなったような気がした。