memory2 隼斗
memory2 隼斗
雪がちらついている。
地に落ちた雪は水となり染みゆく。巻いたマフラーに顔の下半分を隠し重たいコートのポケットへと手を入れたまま人通りの多い道を歩く。
「ねぇ隼斗。どこに行くの?」
黒いコートに身を包み白いマフラーを巻いたハーフツーインの少女はとなりを歩く黒いコートに黒いマフラーで身をかくす少年―隼斗に問う。
「淋……俺の話を聞いてたか?追われてるんだ……逃げてるだけさ」
一度もとなりにいる少女―淋をみずに答えた隼斗。目線は固定されず常にどこかをさまよっている。歩く速度が少しはやくなり空は少しずつ暗くなる。雪もまた、少しずつ積もっていた。
「まだ篤史さん家にいるんだろ?まだ春キャンプ始まってないよな」
「帰らん!パパがおるけど嫌や!どーせあの人もおるんやもん!」
淋が唇をとがらせ少し眉間にしわを寄せた。
「まだ何もいってねぇだろ。それにこのままだと一日外だぞ」
人通りの多い道を選びつつ何度も角を曲がる。溶けた雪は凍り始めていて足元が安定しない。隼斗は無言のままポケットから手を抜き淋へと向ける。淋もまた無言のままつめたくなっている手で隼斗のあたたかな手を握る。
「隼斗のお家に行く。隼戦くんおるからへーき」
「駄目だ。それに隼戦は本家に帰った。少しは千代さんに馴れろ。お前の継母だろ」
淋は眉間にしわを寄せたままうつ向く。隼斗が引っ張る形で歩き西地区の外れにある一般的な家の前で止まる。隼斗はインターホンを押し淋の手を強く握る。家の扉が開き明るいオレンジ色の混じった光がもれる。黒髪の女性とがっちりとした身体付きの黒髪の男が出迎える。
淋が強く隼斗の手を握った。
「ほら行けよ」
隼斗は淋の手をほどき背中を押す。淋は観念したように黒髪の男―篤史の方へと歩みを進める。
「また何か……大変なことが?」
「まぁ色々」
「私やっぱ嫌われてるのね」
黒髪の女性―千代は淋の方をちらりとみる。
「馴れていないだけですよ。丁度他人を意識する頃で」
隼斗は千代に微笑みかける。
「だといいけど」
千代もつられて微笑んだ。
ビルの屋上。風が吹き荒れクリーム色のツーインテールと紫色のリボンが揺れる。
「俺に……なんのようだ?」
「それはこちらのセリフよ。わざわざ何のよう?朝の視線は私じゃない」
隼斗の表情が険しくなる。無表情の少女をただにらみつけている。
「何か言いたいことがあるんじゃなかったの?」
無表情だったその少女が微笑む。
「利害の一致?」
「そうだ。お前と契約する。だから……」
隼斗がうつ向く。少女の微笑は消えない。
「あなたのその力を私がおさえる。かわりにあなたは私の戦力になる」
「あぁ」
隼斗が頷く。少女は隼斗へと近付き一本の日本刀を渡す。一般的な日本刀よりもはるかに短い。
「アリスの……魔剣」
隼斗は受取りずっしりと重いそれを見つめる。
「そう。アリス・ミョルニルが禁呪術でつくった重さ15㎏前後の10番。名をアルテミス。破壊力はかなりある」
少女の微笑はまだ消えない。