41 近付くⅢ
41 近付くⅢ
第三試合は渉対 参番隊 前田嵩人。少し長引きながらも渉が勝った。第四試合日高対 伍番隊里崎友之で里崎の勝ちとなった。ゆかりは少しそわそわし莉磨に声をかける。
「お手洗いに……」
ゆかりの本音は別に行きたくない。だがこの空気のなかにいられるほど強くなかった。
「いってらっしゃい」
莉磨は扉をあける。ゆかりは立ち上がり明るすぎるほどの廊下らしき場所に出た。一息はき歩き出す。少しどこかで時間を潰すつもりだった。
ゆかりのいなくなった部屋で溜め息をつく。
―疲れた……。
なれないことはしたくない。それは本音でありわがままだ。したくなくてもしなくてはいけない。ゆかりは今は客だ。
莉磨はもう一度溜め息をついた。
「竜一です。竹内陸斗の生命反応が消失しました。また、求番隊員の田辺あやめの生命反応が地下にて消失。現在、早見淋が捜索中です。また、荒木渉と本郷夏輝に緊急任務を発令し試合を途中棄権させました。荒木渉には夏井ゆかりの見張り兼接客を、本郷夏輝には早見淋と合流してもらい二人で捜索。手の空いた莉磨さんには紅夜捺輝さんと特別任務です。詳しいことは白石隊長に……」
面倒な連絡が入り莉磨はまた溜め息をついた。
「第五試合、勝者 木暮裕斗
第六試合、弐番隊 脇谷修二 対 壱番隊 宮國椋也」
アナウンスと同時か、ゆかりはぴたりと足をとめた。
「日高くん?」
目の前を歩いていた日高も足をとめる。
「桜井か……」
日高の声には深い悲しみがこもっているような、ゆかりはそんな気がした。試合で負けたからではなくもっと別の。
「あの時は悪かった。任務があったわけでもないのに……………俺は戦わなかった」
日高は、日高の声は、震えていた。
―何に?
ゆかりの中に疑問が浮かぶ。何を謝る必要があるのだろいか。
「組織が……戦闘機を使用し始めた。……俺にパイロット訓練生通告書が届いた………きっと早見にも…。いつ死ぬのか余計わからなくなって………………」
日高の拳に力が入るのがわかる。まだ一度、一瞬しか目があってない。
「わりぃ。なんでもねぇ」
日高が走っていく。ゆかりは追い掛けることが出来ずその場にたちつくしていた。
扉が音を立てて開き光と共に渉がなかへと足を踏み入れてきた。
「随分遅い到着ね。まちくたびれたわ」
莉磨は腕をくみ立っていた。面倒そうな冷たいような視線を渉に向けた。
「いや…」
「うそよ。桜井ゆかりはどっかいったわ。そのうち帰ってくるから」
莉磨は渉と場所を入れ替わる。珍しく莉磨は小さくはっきりと笑みを浮かべた。