40 近付くⅡ
40 近付くⅡ
なれないことはするもんじゃないな、ふと後悔がよぎり苛立ちの感情が心中を埋め尽くす。
公開訓練試合のためにつくられた特別訓練室は広い。円形筒状の戦闘区域はガラスと呪壁がはられている。それをかこむようできた客室。ビル七階分の高さがあり1~2階までが任務のないディセントの観戦場となっている。
「あの…名前を……」
ゆかりは私立TB中学校の制服、白いYシャツに紅いリボン、黒いスカートをはいている。そしてただ、緊張していた。
「零番隊第3席副官補佐をつとめている架聖莉磨。普通に呼んで」
真横にいるのは人形のように整った顔の莉磨。体育際で一度あったのをお互いに覚えている。
「あの……」
「淋は2試合目、荒木渉は3試合目。淋はおそらく初戦負け。他にききたいことは?」
莉磨は冷たい声で言う。感情を隠そうともせず声に現れている。
「日高くんは…」
「日高直人。伍番隊第9席、右利き。第3警羅班所属の東地区出身。第4試合目出場。近藤椋は不参加」
こまかなデータをすらりと話した。
「…及び拳銃などの殺傷能力の高すぎるものは禁止。時間制限は無し。どちらかの戦意消失、失神を確認した時点で試合終了となります。
第一試合、零番隊 村中恭悟 対 質番隊 瀬口詩織」
由哉の声が特別訓練室だけでなく本部全土に流れる。
「試合開始!」
審判・捌番隊長 福井俊哉の低く太い声が響く。恭悟は半歩下がり攻防の基本姿勢をとる。詩織は日本刀型の木刀を右手に構え後ろへとまわりこむ。恭悟は気配を察知し振り向き振るわれる刀を右手で受けながす。そして瞬時に左手を詩織の左首筋にあてる。詩織の息が少し荒れていた。
福井はそれを確認し右手をあげた。
「一本!それまで」
―ヤベッ!つい……
恭悟は後悔する。とっとと負けて練習に参加したかったのが本音だ。
「わりぃ」
小声で詩織に謝る。お互いに一本下がり礼をし控室へと戻る。
「第一試合、勝者 村中恭悟
第二試合 零番隊 早見淋 対 壱番隊 早川拓也」
書類の束に目を通していく鳥刈とその横に二人の男は座っていた。
「第二試合、勝者 早川拓也」
「あぁバカ。勝たせてあげなよ」
一人の男、壱番隊 第5席 早川拓也の兄であり監理官の早川豊だ。
「バカと言ったら俺の弟もだ。椋也なんか「父さんみたくなりたくない」って勝手に試験受けてたんだから」
大きな溜め息をついて言うは壱番隊第4席 宮國椋也の兄であり監理官の宮國椋介だ。
「顔色が悪そうですね、白石さん。なにかありましたか?」
鳥刈が突然扉の前にたつ白石に問う。
「いや……あの…」
白石は言葉につまった。