memory1 篤史
memory1 篤史
陸番隊の一室。能見とかかれた扉をあけ中へと入る。黒髪の男が一人、ベットの上に座り本を読んでいる。
「篤史!」
薄茶の髪の男は声をかけた。
「彬か……」
篤史は本を閉じ彬の方をみる。
「この前な、産まれたぜ」
彬は扉をしめ椅子に座る。窓の外はまだ明るい。
「女の子だ。莉花ってつけた。いいだろ?」
「なにがだよ」
篤史は微かに笑う。
「眼鏡かけてるの変」
「そーか?」
篤史は眼鏡をはずし、ケースへとしまう。動き一つ一つが流れるように、人とは違うものをまとっていた。
「そーいやとっとと結婚しちまえよ」
「考え中。まさか親友にさきこされるとはね」
「いーだろ!?」
「茉さんもキレーだしな」
篤史の言葉のあと、彬の言葉はかえってこない。じんわりと重い空気が広がりつつある。
「あのさ……俺と茉になんかあったら……莉花を育ててくれよ」
「?……お前、何言って……」
「わりぃ。なんでもねぇや。そんなこえぇ顔すんなって!」
彬が言うが篤史の表情は変わらずシリアスな雰囲気も変わらなかった。
「……会議あるからもー行くわ…」
彬が部屋を出る。篤史は追う気になれなかったが思考はパンクしそうなほどフル回転していた。
深夜、誰かは大剣を振るった。そしてまた誰かは日本刀でそれを弾いた。
「アリスの魔剣か……」
深紅にそまる日本刀を見て誰かは呟く。そして身丈に余る大剣をふりおろした。
篤史は朝、漆黒のケータイからの連絡で完全に目をさます。紫の薔薇のえがかれたジャケットをきて隊舎を出る。全力で走り左にまがれば紅い液体は広がっていた。
赤子を大切にしかし確りと抱きしめる黒髪の女性とその前方には、深紅にそまる日本刀を握りしめる男。
「茉さんと……彬?」
「能見!」
名前を呼ばれて篤史は振りかえる。そこには朝とはいえ気温がそこそこ高いなか黒いスーツをきた二人組の男がいた。
「監理官!…なぜここに!」
「随分面倒な事をしてくれたよ。ホントに」
監理官と呼ばれる男は篤史の言葉を無視し続けた。
「しかし陸番隊長ともあろうやつがこんな簡単に死ぬとは」
「宮國さん、言い過ぎです。抵抗の痕跡はいくつかみられますし」
「鳥刈。お前は若すぎるな」
二人組の男は去る。篤史は小さな赤子を持ち上げ強く抱き寄せた。
「面倒な事をするな」
誰かは言う。振るわれた大剣が篤史の左胸を貫いた。篤史は一瞬踏みとどまるが崩れおち意識は暗闇の中へと消えた。