32 平和?
32 平和?
机に顔をふせ爆睡している隼斗。前からゆっくりと歩いてくる先生に気付き碧人は隼斗の足を踏む。
「起こすなって」
碧人にだけ聞こえるように小声で言う隼斗。
「いや起きろって」
碧人は隼斗の肩を叩く。もちろん隼斗は起きない。先生は教科書をまるめふりおろした。
陸番隊舎の一室で武装したまま床にすわり溜め息をついている夏輝。まだ心の整理がついていなかった。
「クソッ」
何をもったいぶっているのかと自問自答を試みるが答えがみつからない。
「未練が残ってんのか?」
声にだして自分に問うが答えはかえってこない。今更やめられないと自分に言い聞かせる。
「役者はそろったんだ」
一人の少女の残像が消えない。
「そこは普通あの人だろ……」
莉磨よりもほっそりとした弱そうなあの少女の残像がしつこく残っている。
今日は独り言が多いなとまた、独り言を夏輝は言った。
隣に座る転入生・桜木ルナはいたってまじめに授業を受けているように見えるがそうでないとゆかりはおもう。
「何しにきたの?」
ゆかりは思いきって小声で聞いてみる。
「気付かれましたか。(一応)私はディセントです。早見淋にかわり竹内海斗君の監視をまかされました。今回はあなたにも協力していただきたいと思っています」
「!」
「私が書いた報告書をあなたは受けとりそれを三年バスケ部員の荒木渉に渡してください。それだけで結構です」
淋とは真逆の雰囲気のルナなのにどこかにているような気がするゆかり。
「わかった」
ゆかりはこくりと頷いた。
「合言葉はkeep our promise です」
淋からの手紙に書いてあったそれは合言葉だったんだとゆかりは冷静に考えていた。
「淋の言う危険って……」
ゆかりは一人呟いた。
莉磨は久しぶりに球場へと足を運ぶ。時刻は午後五時半。試合開始まであと30分ほど。黙々と練習している選手たちを内野席から見つめる莉磨。明るいなと呟いた。
予告先発は時期エースだと噂される恭悟。もう既に投球練習を始めていた。
「今日は一塁側なんだ」
声をかけてきたのは慎吾だ。まわりにいる女子が騒ぐ。
「あれは中止になったから」
「あぁ、由くんが言ってたね」
やはり笑顔がある。陸番隊第3席としてどうなのかと莉磨は思った。
午後十時を過ぎた頃だろうか。暗闇にまぎれ夏輝が動き出す。それは何をひきおこすのか。