29 動き出す
29 動きだす
雲一つない青空に黄色い煙が広がる。
終戦を告げる合図だ。
「勝ったね」
「うん」
無表情のまま頷く莉磨。誰かがのぼってくる足音がする。
「すごいな。百発百中」
のぼってきた誰かが優しく微笑む。
「お誉めいただき光栄です。白石零隊長」
その頃からかわらず白石は隊長だった。
「陸番隊員か……」
「はい。陸番隊第3席紅夜捺輝です。以後おみしりおきを」
白石の銀眼が輝く。黒髪が風になびいた。
「君は?」
白石は捺輝から莉磨へと視線を移す。
「同じく陸番隊第5席架聖莉磨と申します」
「君が?」
「はい」
莉磨はこくりと頷く。
「特技は?」
「特技は……ありません。でも銃は好きです。殺した感覚が残りませんから」
莉磨は無表情で言った。
あの頃にくらべれば莉磨は表情がでるようになった。それを喜ぶべきか悲しむべきか、真実をしる捺輝は悩んだ。
先に剣を向けたのは淋だった。大振りで襲いかかる日本刀を夏輝は大剣で受けとめ払っていく。淋はかなわないとわかっているのに攻撃を続ける。感情的になっているせいか、それともただ気付かないふりをしているのか。
ただ夏輝は冷静だった。
淋の一瞬の隙をつき日本刀をはじいた。回転し夏輝の後ろへと落ちる日本刀。
大剣は首筋でとまった。
「……んで……なんで殺さないのよ!!いっそ殺してくれれば…いいの……に!」
夏輝は思わず大剣を手放しくずれおちる淋の支えとなる。そしてそっと床に寝かせた。
「お前!!」
たまたま通りかかったのだろう隼斗は殴りにかかった。
白石にいわれ仕方なく肆番隊舎の治療室へと入る。
「どう?」
「刹那さんがいらっしゃったんで死者はいませんがある程度傷は……」
答えたのは肆番隊長であるリフ。
「刹那は?」
「自室で休まれていると思います」
治療を行っているねは碧人が中心。その近くによく知った顔が。
「瀬田玲音!」
莉磨はゆびさす。
「指差してはいけません」
リフはその指を上からおし下げる。そして莉磨の指差した方へと視線を移した。
「彼がどうかしたんですか?」
「あのチームに上位席官がこんなにいるなんてね」
「彼、ナンバー5ですよ」
数秒の間があく。
「うそ!ホントに?」
「ええ」
リフは呆れたように溜め息をついた。
くらくらする頭をおさえ起き上がる。
―何があったっけ?
視線を前へとうつす。隼斗が殴りかかっていた。