2 平山・矢野
2 平山・矢野
試合終了からさして時間がたったわけではない。しかし打ち合わせと顔合わせを兼ね穴場ともいえるその場で食事を取る。といってもさした量ではない。どちらかといえば飲料系が多いだろう。
「意外。煉と敬士が協力するとは思わなかった」
「カタチだけだよ?」
本気か、冗談か、よくわからない返答をたのは大和煉夜で、笑みが絶えない。考えの読めない仮面のような表情の下にあるのは洞察力。何一つとして見逃してはくれない。
「あっ!」
驚きというよりは喜びの強いその声の持ち主は予想外と言えるか。
「矢野さんと…平山さん!?」
名を呼んだのは鳳敬士。珍しく、とでもいうのか驚きを隠せていない。同時、苦笑が心中を支配する。
「手間がはぶけたね」
「そうみたい」
接触という第一段階でもだいぶかかる予定であったがどうやらすんなり解決してしまった様で、楽といえば楽ではある。
「どうも」
少しそっけなかったか。任務対象に何かを思いえがく気はないがなんとなくやりにくい気配を感じる。
「すまんの、邪魔してもうたか?」
「いえ、別に」
随分と柔らかい笑みを浮かべる人物だった。偽りのないまっすぐな瞳は苦手だ。思わず目をそらす。
「一緒にどうでしょうか?」
気を聞かせたつもりではあるがどうか。
「ほんまにすまんの」
楽しそうな矢野とは対照的に申し訳なさそうに平山が腰掛ける。嵐が来た、とでも言いたそうな表情で敬士が莉磨を見つめた。
結果は上々とでもいうのか、しかし随分と長い時間とどまっていたような気もする。
「疲れた」
敬士達が帰った頃にはすでに眉間にしわが寄っていた。
「アドも手に入れたしOKかな」
捺輝も少し疲れているようだ。とはいえ平山はあまり会話に参加していなかった。問題があるとすれば矢野という不思議な存在だろう。今会えば敬士のような表情になることは自身がよくわかっている。
「報告入れておかないと…」
まだ寒さの残る春の夜は意外と悪くない。肩から力を抜き携帯電話から電話をかける。
「もしもし、広大?……予想通りかたちだけらしいあとよろしく」
さして用事があるわけではないので通話はすぐに終わる。
「帰ろう」
風は少し冷たいか。空は淡い星の光がちかちかとしている。捺輝がそっと、莉磨の手を引いた。