26 始まりⅢ
26 始まりⅢ
風が砂を舞いあげる。日光が眩しい。風は好きだけど太陽は好きじゃない。それは隼斗もしっていた。
「嫌か?」
ここ最近、淋は戦いっぱなしだった。肉体的に疲れてるはずだ。今まで手を抜けるほど楽な戦いじゃなかった。
「平気」
よくみれば淋は武器を持っていない。隼斗は背中に赤薔薇のえがかれたジャケットの裏にナイフを5本、とルトに拳銃が2本だけの装備だ。敵からすれば本当に戦うきがあるのか怪しいぐらいの装備。
「きた」
淋の背中に無数の直線がえがかれていく。複雑な一見、わけの分からないものだが呪術陣。淋が本気を出す合図だった。
IDをとおし門を開ける。そこにいたレベル15以上のフォリンを中に入れた。
風が吹き付ける。涼しくはない。むしろ生暖かい風は暑さを感じる。
「おかしいな」
無意識に基礎術を使い大剣を振り始めてから30分程がたつ。忍足侑士はフォリンの動きが気になってしかたがなかった。
「嫌なとこしか攻撃して(ついて)きへん」
「そっすか?俺は別に…」
「お前は苦手があらへんやろ」
侑士の体力は確実に少しずつ削られている。最初はかわしていた攻撃も今は受けとめ反撃には時間がかかっている。広大は相変わらず余裕そうだが暫くすれば侑士と同じ状況に陥るだろう。
「玉切れなんで下降ります。ヒロが先行きました」
「由哉です。本部にフォリンの大群が押し寄せました。本部にいる数名では押さえきれません。戻れる人は戻ってきてください。」
立て続けに連絡が入る。無意識に広大が舌打ちをした。
淋は特別な戦い方をする。呪術を使った戦いをするとき、必要になるのは呪力や呪操具と印をきる作業か呪符が必要になる。難しい高度な呪術は有り得ないほど長い言魂と複雑な呪術陣をかく必要がある。呪術陣といっても複雑なものしかないためそう簡単にかけるものではない。高等呪術師や三呪脈と呼ばれる生まれつき呪脈が三つある者(3000年に一人程度うまれる)がたまに使う程度だ。淋は三呪脈ではない。しかし、いとも簡単に呪術陣を呪術で描く。
「狂い咲き」
淋の一言でフォリンはほぼ全滅した。淋がなぜこんなにも簡単に呪術陣をかき発動出来るのか何人もの研究者が頭を悩ませたが未だに解明されていない。
―恐いな
隼斗は時々そう思う。隼斗は淋の巨大な力を制御するためにいる。組織に入るずっと前からそうだった。精神的に不安定な淋の力を制御するのは大変だ。たまに面倒になって自分一人で戦うときもあった。最近、いや前の隠密任務のときから淋は変わっていた。恐いと感じる回数が増えた。
「行こう」
無邪気に笑う淋。
「そうだな」
つられて隼斗も笑った。