1 莉磨・捺輝
1 莉磨と捺輝
美月テレサ。
それが本名。ディセントの始まり・紫紋が二つに分かれたうちのひとつ。未来永劫解かれることのないであろう呪いをはっきりと理解させられるその名前。
架聖莉磨。
それが今の名前。6ある武器の名門のうちのひとつ。・架聖の技をすべて修得しその名を継いだ。「莉磨」は美月家に代々伝わる名前で、やはりそれを意識させられる。
「行こう莉磨。時間が………」
莉磨を促すのは幼馴染である捺輝だった。捺輝もまた、武器の名門・紅夜のを技をすべて修得しその名を継いだ。名前は「莉磨」と同じ代々受け継がれるものだ。
本名は、紅桜悠聖。
紫紋の片割れであり、紅の血と呼ばれる禁忌を犯した一族の長男。
「うん…」
零番隊に移動してから久しぶりの二人での任務ということもありほんの少し懐かしさを感じる。
「球場に出入りし平山進次を大和煉夜・鳳敬士らと監視すること。また、内密に桜葉広大が潜入中……だって」
任務内容を復唱。表情はない。
「広大が隠密って似合わない」
「うん」
夕焼に照らされながら風に髪をなびかせ任務地へと向かった。
球場は賑やかだった。試合はまだ始まっていないというのに写真を撮っている人が多いか。応援歌が心地よく響いている。三塁側スタンド内野指定席。一列目の128・129番の席は選手たちがよく見える位置か。よくもまぁ良い席を取ってきたものだ。内心感心しつつやはり任務が脳裏に浮かぶ。
「煉達とは連絡取れるけど平山進次とのかかわりなんかあんまりないんだけど……」
「基本情報は?」
「七月一日生まれの右利き。右・左、外野手。西地区出身。守備のは付かず、代打がほとんど……。ぐらいかな」
標的についての必要な情報はすべてもらっていた。とはいえそこまで詳しいと言えることではない。
「組織は何で監視させるんだろう」
任務に対しての疑問を口にするのは珍しいか。感心できることではないなと思いなおす。
「さぁ」
捺輝はあまり興味がないらしい。酷くどうでもよさそうにグランドを見ている。
「一回の………」
騒がしくてアナウンスは聞こえない。もともと聞く気もないから余計そう感じるのだろう。
「始まった」
「うん」
特にすることもない。固定された視線の先はベンチに座る平山進次だった。