18 レイチェル・ミョルニル
18 レイチェル・ミョルニル
零番隊舎の隊長室。ソファーに座り分厚い本を無表情で読み進める莉磨。カーテンもしめたまま電気もつけずに珍しく一人でいる。
「!」
扉が開き明るい光りと共に誰かが入ってくる。
「電気ぐらいつけなよ」
黒髪に銀眼。書類の束を持っている。
「なんだ。白石さんか…」
「なんだ。…ってお前さ。ここは基本、俺しかこねぇよ」
白石は書類の束を机に丁寧におき椅子に座る。
「恭を待ってる。もうすぐ来るはずでしょ」
「恭悟は……くるな」
白石は書類にサインをしていく。莉磨は読んでいた本を机のすぐ横にある大きな本棚に戻しまた新たな本をとった。
「そんな本、あった?」
「昔からあるよ。呪術陣の本なんか」
莉磨の読んでいる本は呪術陣についてかかれている。呪術陣は高度な呪術を使うときに言霊を短縮するために使う。複雑な陣もあるためあまり戦闘では使われない。
「失礼します。村中です」
「どーぞ」
白石は手をとめ扉の方をみる。莉磨はかわらず無表情で本を読み進めていた。
「あれからソラトに動きはありません」
恭悟の黒髪が光りにあたり輝く。
「ただ…カテゴリ2、レイチェル・ミョルニルに動きがありました」
―うわ、面倒なことを
白石は内心そう思うが顔にはださなかった。莉磨も本を閉じ同じことを思っただろう。白石と目があった。軽くうなずき立ち上がる。
「求番隊に調査依頼。レイチェル・ミョルニルの動きを補足しろ」
白石も立ち上がりインカムで連絡する。
「零番隊第三席六席八席に出動要請。また念のため肆番隊第二席・桐生碧人が同行。指揮官は零番隊第三席架聖莉磨。カテゴリ0」
白石が連絡を終えると本部内は忙しくなった。
帰る途中だった。普段はあまり感じない妖気を感じとった淋。
「逃げてください……って言っても先輩は聞かないですよね」
「……」
巨大な妖気が一つ、こちらに急接近していた。
「別にいいですよ。もう」
淋はつけていたペンダントを金子に渡した。
「あげます、それ。おまもりです」
十字架とそれに巻き付く薔薇のペンダント。つくりはいい。
「なくさないでくださいね。結構高いんで」
人気のない小さな道で心を落ち着かせ敵を待つ淋。自分の足では逃げ切れないことをわかっていた。そして勝てない事もしっていた。 金子に渡したペンダントには妖気が込められている。よほどのことがない限り敵は金子に触れない仕組みになっていた。