96 展開Ⅲ
96 展開Ⅲ
大剣を引き抜く。いつもよりも重い気がした。
「何の用だ?裏の住人が」
警戒を見せるのは木暮裕でありその後ろには複数の名門家当主が並ぶ。
「海王、冥王、水連、二神、天瀬に桐生、木暮とは豪華だな」
正直なところ驚いていた。思ったよりも人数は多い。
「美月の当主はどこにいる?」
はきだした声はいたって冷静だ。いつも通り問題はない。マントに身をかくしていることもあり夏輝を夏輝と認識しているものはいないだろう。さして関わりのあるものもいない。
「返答なし…か。残念、だよ」
そうはいったものの最初からこの予定だった。手に持った大剣で木暮の首をはねる。二神伯夜と天瀬雅哉が武器を構え水連アミカと冥王サラを守るように立ち位置をかえた。しかし、
「遅い」
既にアミカの首は落ちている。海王アクアを守るように立ち位置を固定する桐生俊之を一瞥。大剣を向けるのは伯夜と雅哉の方で低い姿勢から切り込みを入れようと振り上げる。大きく弾かれ体勢が上がると同時、地を蹴った。半歩距離をとり呼吸を整えたところで雅哉の腕が血を吹き出した。
「情けないな…」
自嘲気味に雅哉は呟き大剣の構えを片手になおす。夏輝は再び桐生を一瞥。呪術結界がはられ淡い光につつまれていた。
「面倒だ…」
予定では呪術結界をはらず高速で終らせるはずだった。誰も逃げ出していないだけましだろうか。
「こいよ」
雅哉の挑発にのるように夏輝は前傾姿勢でもって攻撃を開始。下から斜め上へと大剣を振り上げる。かわされると同時伯夜へとそのままふりおろし方向転換は一瞬、雅哉へとつき出す。伯夜は隙を見逃さない。がら空きになった夏輝の顔へと武器を運ぶ。夏輝は無理矢理に上体を反らしつつ大剣を引き戻した。キンッと金属音が響く。微量の火花がちり体勢が崩れる。伯夜の追跡はない。現状では確実に夏輝が劣っている。不利だろう。しかし現状を反転させることは容易。
「甘く見すぎてたな…」
即ち本気を出せばよい。ただし本気を出せば力加減は出来ず肉片一つ残さない可能性が高い。ふとマントを取る。
「なにす…」
判断速度は人並み以上だった。相手が異常を感じた時点で即座に行動へうつる。言葉を発しかけた伯夜の首は、肉体は、既に肉片となり地面へふしていた。うっすらと焦げた香りを漂わせる。
次は雅哉。構えをとられる前に一手を放つ。原形は無い。まわりを巻きむように熱は発生し消えた。水分が蒸発したのだろう、喉が渇く。サラとアクアを逃がそうと動いていた桐生を結界と共に破壊。背中から心臓を一突きだった。
「くっ…」
アクアが戦闘体勢をとる。だが。
「遅い」
一瞬、アクアの首は落ちていた。サラを逃がすまいと間隔は空けず大剣を一振り。溢れ出す鮮血はいとおしい。
笑いがこみあげてくるのは何故か。
快楽、快感、達成、逸楽、陶酔、鮮血、狂気にまみれた狂喜。殺戮衝動。
夏輝を支配する感情はいたって単純で制御しかねるものだった。