95 展開Ⅱ
95 展開Ⅱ
感情論でいうならさして好きではない相手を助けたいとは思わない。ただそれはあくまで感情論で無駄といえるものだろう。
「瞬さん…」
「強制だ」
わかってる、と返事しようとしてやめた。すでにドアの鍵は破壊され無防備ともいえる状態ではどうしようもない。警戒を怠ることなくそっと足を踏み入れ真っ直ぐと進んでいく。隠れる場所もなければ隠れる意味もない。
「誰もいない…」
無意識ともいえる内に呟き周囲の気配をたぐる。特別変わったこともなく静かな空気だけが広がっていた。
「普通じゃないな」
争った形跡はない。緊急信号をだしたということは多少は争ったはずだ。
「莉磨…」
「隠部屋は?」
機械越しにきく莉磨の声は思っていたよりも冷静で最初からわかっていたかのように聞こえた。
「瞬さん!」
隼斗が見付けたのはカーテンでかくされた煉瓦でつくられ淡い光に包まれるうっすらと模様を浮かべた壁。
「押す……っていうのはないよな?」
「呪術結界だと思いますよ」
飽きれまじりに隼斗は答えその場から離れる。
「抜け目ないな…。このためだったのか」
そっと一枚の小さな紙切れを壁の下へとおき手をかざす。淡い光の壁は音もなく亀裂を走らせくずれおちる。煉瓦は中心から四方へと畳まれ薄暗い穴が地下へと続く。
「不服そうな顔すんな。行くぞ」
促され嫌そうな表情を残したまま隼斗は足を踏み入れた。黴臭くはない。
「地下牢…?」
思いの外綺麗だった。すこし寒さを感じるがそこまで気にする必要はない。
「いたぜ」
随分と冷たい声だったが隼斗はさして気にとめない。いくつかある独房の様な部屋のうち一つだけ扉がしまっていた。それを力業で破壊し中をのぞく。
「一般人二名を確認。保護します」
隼斗は素早く報告をいれた。
二人は屋根の上へと一瞬で出現した。篤史につかまれた腕に痛みは走り続けている。遅れて発動した篤史の能力は幼気をかきけしていた。お互いに一歩も引くことなく時間が独りでに流れる。
「どういうことだ?何を企んでる?」
「知りません。莉磨はいつも何を考えてるかわからない人でしたから」
本音半分、誤魔化し半分の言葉に篤史が納得するとは思っていない。しかし予想に反して篤史は拓也の腕をはなした。拓也は驚きつつも走り出す。
「何が…したいんだよ」
人知れず篤史は呟いた。
模造品であるその報告書を久保はくしゃくしゃにまるめた。
「こないつもり……なかったんやけどなぁ」
「僕もそんなつもり無かったですよ」
静かなバスの中、最前列に座り会話をきりだしたのは煉夜だった。普段ならこの静かさを平山が盛り上げていたのだろう。
「信じて貰えるとありがたいんですけど」
なんて、煉夜はいつも通りの笑みでもって久保にいった。
「信じとるよ!とうの昔に信じとるわ」
久保は小さく叫ぶ。
「今頃こない物…どないして俺なんや?俺やなくても篤史に、トリに、打ち明ければええやろ。レンのまわりにはおるやないか」
苦しさが胸を支配する。今すぐこの場で泣き崩れるかと思うほど辛い。
「上野と中谷は知ってますよ。しった上で協力してくれる。みんな同じ、罪滅ぼしなんですよ」
煉夜は久保がくしゃくしゃにまるめた報告書をひろげ細めた目で文をなぞる。
『武器の創成は空間転移又は同系統の術式だと考えられる。造り出す武器の形は己を表すものだと思われ他にも戦闘法等に影響する。なお先日の実験結果より薬は有効的だと考えられ人工的に紫紋の能力を作り出すことは可能である』