93 日常の狭間Ⅳ
93 日常の狭間Ⅳ
莉磨はモニターをのぞきこみ篤史へと繋がる携帯電話へと言う。
「瞬間的移動が可能なのは現在の捌番隊員三名と刹那。それから、早川拓也よ」
「アイツか…。悪かったな」
苛立たしげに電話は切られ沈黙がかえってくる。莉磨は冷静に携帯電話を閉じた。溜め息をつきつつも食べそこねた食事をしようと思い動き出す。
「緊急信号を受信!宮國椋介、早川豊の二名です。どちらも発信元は自宅です」
いそがしそうに竜一はキーボードをたたき読みあげる。面倒そうに莉磨は食事を諦め侑士の視線を受けとめた。
「樋内隼斗と天王瞬弥両名を出動。それから刹那をここに呼んで」
「了解です」
短い返事と共に動き出す。
「死んどってええんやけどなぁ」
「禁句よ」
莉磨にいわれ侑士はわざとらしく大きめに肩をすくめる。
「すまんすまん、口が滑ってもうたわ」
侑士はさらにわざとらしく言葉をつけたした。まるで莉磨に同意を求めるかのように。
急に呼び出されて仕事をさせられたと思えばらしくないお茶が出された。拓也は戸惑いを見せお茶に手を出さない。いや戸惑いと言うよりは疑心だった。このお茶になにかはいっている、と。
「今更何をしようとしているんですか?兄さん」
拓也は正面に座る兄へと、豊へと問うた。
「椋介さんも、何が目的でこんなことを」
相変わらずというべきか、拓也はこの二人が苦手だ。何を考えているのかわからない表情で利害の一致しか求めていないような自分の兄が嫌いだった。
「何が目的、とわかりきったことをきかれても困るな」
はぐらかすことが目的であろう返答に拓也は苛立ちをかくさない。
「冗談よして下さい。僕は関わりませんから」
怒りをはっきりと見せ付け踵をかえす。
「僕等以外を殺したのは誰だと思う?」
「?」
唐突に言われた事柄に拓也は思わず足をとめた。
「状況からみたら早見篤史かな」
ふざけたような口調で言う豊を拓也は睨みつけるように見る。
「次はどこにくると思う?」
豊はたっぷりと間を開ける。
「皆殺しにするだろうね、ここで」
その笑顔は恐怖を与えた。死ぬことなど何ともないような、毛ほども考えていないような笑み。しかし拓也は怯まない。
「段取りは完璧だ」
椋介はそこではじめて言葉を発した。微かな足音に拓也は警戒を見せる。豊の軽薄な笑みは、消えない。
篤史は莉磨との電話を無理矢理におわらせ急ぎ足で準備を始めた。ベルトをつけかえ拳銃を一丁しまいこみ眼鏡をはずしそっとケースにしまう。閉じた瞳をゆっくりと開き外へとでた。一歩で屋根へと飛び乗り空中を走る。妖気を探索しながらもむかうさきは一つで迷いなど無い。一直線に走り抜けていく。
― 早川拓也、か。
篤史はその名をなぞり脳裏にその顔を描く。同属とは思えないような甘ったるい顔付きだったな、と。
― 感情的に対応している時間は無いか…。
同じ方向に向かっている覚えのある妖気を感じ結論のみをはじきだした。速度をあげる。地区を跨いだその場所で止まり躊躇なく豪華といえるであろう家の門をくぐった。