91 日常の狭間Ⅱ
91 日常の狭間Ⅱ
収集室というのはいつでも暗い。必要最低限のあかりしかない。
「こない面倒な仕事…、どないして俺にまわってくるんやろな」
ボールペンをくるくると回しながら侑士は呟く。
「自業自得ですよ」
微かな苛立ちを交えて言うのは竜一でそれでも黙々と書類への書き込みを進める。シエルの殲滅時に使った戦闘機の破損は大分大きかったらしく始末書をひたすらに書かされているのが侑士だ。
「でもまさか上層部が壊滅なんて…」
竜一は一連の報告書及び始末書に目を通し呟く。驚きと不安の入り混じるその声に侑士は応えない。
あまりにも直球的に問われ、篤史は思わず目を細めた。いや、大体はわかっていたが自分の中でまだ訊かれたくないという希望が残っていた。
「どちらの味方にもならない」
篤史がだした答えはそれだった。最も無難で最も動きやすくなるであろう答え。玲音はそれに困惑する。
「どういう……ことですか…」
「面倒事はキライでね。特別な理由がない限りは手を出さない」
困惑する玲音をよそに篤史は冷静に告げる。
「そもそも俺は当主じゃない。すでに淋が当主代行の任についてる。でもあいつはこの戦に顔を出すことはない。本戦にはな」
篤史ははっきりと言った。玲音は言い回しに引っ掛かりを感じ篤史の言葉を頭の中でなぞる。
「俺は動かない」
篤史は先手をうった。
「せんぱ…」
まるではかったように玄関口のチャイムが鳴る。
「ほら行け。時間だろ」
篤史は立ち上がり玲音を促した。微かにきこえる話声。玲音は立ち上がり先に部屋をでる。それは短い叫び声と同時だった。
冷静に告げられた言葉に莉磨は警戒を見せる。
「ごめん、ごめん。莉磨は怒ってる?」
莉磨の態度がいつもと違うことに寒気を感じ煉夜は問う。莉磨は小さく首をふった。
「怒る理由が無い」
莉磨の表情は無。先程と声色にかわりはない。
「黙って消えたことも?」
「ええ」
「ならどないして、そんな殺気おびとるの?」
最後に問うたのは久保だった。莉磨は意外な人物からの問掛けにしばらく答えない。煉夜は計ったように笑っていた。
「……敵としての、警戒心」
莉磨は久保を一瞥することなく答えた。空気がはりつめる。ひしひしと肌を刺激し呼吸を遮る。
「敵、か。なら敵として話をしよう」
煉夜は言う。
「平山さんが行方不明だよね?もう一人、行方不明になるよ」
莉磨は、関係ない、と切り捨てる。煉夜はそれをさせない。
「全てが同時に動き出した」
煉夜はただ短く告げその場を離れる。久保は煉夜を追おうとしその足をとめた。莉磨は何も言わない。久保は莉磨を一瞥し戸惑いを見せながら煉夜を追った。