90 日常の狭間
90 日常の狭間
何事も無かったかのように進んでいく時計を横目に篤史は欠伸を一つもらした。リビングのソファーで昼寝と言うのもたまには悪くないなと思いつつ目を閉じる。キッチンから聞こえる水洗いの音もテレビの笑い声も心地良く感じ日光が睡眠欲を促進させた。しかしそれは来客を告げるチャイムの音により妨げられ少しの苛立ちがざわめく。
「いいよ、俺が行く」
篤史は立ち上がりやや気だるい雰囲気を残したまま玄関をあける。
「瀬田か…」
玲音の訪問にやや疑問を持ちつつも家の中へと招き入れる。玲音の表情は暗い。篤史は話の内容を思いつつもリビングを通り二階の部屋へとあげた。鍵をかけベットへと腰掛ける。
「わりぃな。ここしか鍵ついてなくてよ」
篤史は部屋を一通り見渡し玲音へと言った。あまり物のない整えられた部屋は一目で女の子の部屋だとわかる。とくに何か女の子らしい物がなくても雰囲気はそうだった。
「ここ…」
「そ、淋の部屋」
玲音は部屋を見渡しちょっとした不思議な気分になるが篤史の返答後すぐに気持を切り替える。本題に入るための。
「先輩はどちら側につくつもりですか?」
直球的に問うた。
缶コーヒーを片手に横にならぶ。とくに深い意味があるわけではないが顔が会わせにくい空気だったからだ。
「偶然あっちゃったからきくけどさ、どうするの?」
「何がですか?」
友浩に問われなんのことかすぐにわかったがわざとわからないふりをした。
「生きるか死ぬかってやつ」
友浩は案外あっさりときりだした。恭悟は答えに戸惑う。
「……多分どっちでもいいんだと思います」
自分でも理解できない感情に目をそらす。
「ヒロさんはどう思ってるんですか?」
「さぁな。俺もわかんねぇや」
友浩は言う。そして蛍光灯が光る白い天井を見上げた。蛍光灯は時折光を揺らし消えそうになりながら光を放っていた。
莉磨は食堂にいた。時間がずれているからか人はほとんど居らず静かだった。そういえば食堂に来るのも久しぶりだな、と不意に感じた。
「ごめん。怒ってる?」
そう声をかけてきたのは久保で、軽い笑みを浮かべている。
「回復したの…?」
莉磨はただ呟くように問う。
「うん、玲音のおかげ。それより外出ない?」
久保はそっと窓の外を指差す。
「動きたいんよね」
久保は苦笑混じりに言った。莉磨は呆れたように溜め息をつき歩き出す。
「あんときさ、平山さんは途中合流だったんだ」
莉磨は久保の言葉をききながら、随分と昔のことを思い出すかのように時間をかけた。
「あの子と入れ替わりやった気もする」
久保の言葉とほぼ同時、微かな足音に莉磨は警戒を見せる。
「珍しい組み合わせだね」
懐かしむようなその声に微かなうごめく感情を感じ冷静さを求めた。
「…いまさら何のよう?大和煉夜」
莉磨の言葉には殺気がはっきりと感じられ久保が半歩身をひいた。
「なんでもない。といいたいけど、そうだな……」
煉夜が一度瞬きし莉磨を見据える。
「ちょっとした戦線布告かな」
いたって冷静に、淡々と煉夜は言った。