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ユメは静かに長い瞬きをした。瞳に溜まった涙が零れ落ちる。
生前の祖母の姿を思い起こし、小さく深呼吸してから男を見た。
「――お願いします。私を、助けてください……」
ひどく震えていて、小さな声だった。しかし、男はそれをしっかりと確認し、目を細めた。男の細くて長い指がユメの涙を拭う。
「大丈夫だよ、そんなに怖がらないで。
僕は、ただ君の未来に賭けてみたくなった足長おじさんだから」
自嘲気味に笑った男を見て、ユメは初めて顔を綻ばせた。
「まだ、おじさんなんて歳ではないでしょう……」
「そう言われると嬉しいなあ。もう27なんだけどね」
言い終わると同時に、男はユメの横を通り過ぎ、階段の方へ向かおうとしたが、少し歩いて立ち止まった。
「ああ、そうそう……」
「僕の名前は、藤木柊一。このカフェの店長をしています。よろしくね」
「わ、わたしは、宮下ユメです。よろしくおねがいします……」
藤木は、深々と頭を下げたユメを一瞥し、小さく笑ってから階段を上っていった。
ユメは一人残されてしまったので、どうすればいいのかわからなくなり藤木の後を追った。