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呆然として涙をこぼすユメの肩に、男の指先が触れた。
いつの間にか、男は立ち上がっていて、ユメは男を見上げる。
「僕を、頼りなよ。――僕は君の、命の恩人なんだから」
「え……」
男の顔がユメの顔に近づいてくる。ふわっと香る煙草のにおい。そして、男はユメの耳元で、少し掠れた声で言った。
「僕が君に、投資してあげようか?」
まるで、それは悪魔の囁きのように、ユメの中からそれ以外の選択肢を消し去ってゆく。
「君がおばあさんとの約束を守れるように、僕が君を助けてあげるよ」
そう言い終えると、男はユメから離れてニコッと笑った。
「僕は君の学費、生活費、その他諸々をすべて支払おう。その代わり、君にはここに住み込んでバイトをしてもらう。ねっ、君にとっては最高の条件だと思わない?」
ユメは何も考えられず、男を見ることしかできなかった。そんなこと気にもせずに、男はユメに大きな決断を迫った。
「さあ、どうする? 僕は、答えは一つだと思うけれど」