(3)
午前二時。
人気のない夜道で、やる気のなさそうな街灯に照らされた自販機で傘を差した男が煙草を買っていた。雪が降っているせいか、あたりはいつもより静かなように思われた。
男は買ったそばから煙草を一本咥え、一服しながら遠くを見据えた。
最近では珍しい、大粒の雪が地面を白く塗り替えてゆく。
「牡丹雪って言ったっけ」男はそう呟きながら、雪に手を伸ばそうとした。
すると、その先に何かがうづくまっているのが見えた。ゴミ袋のようも見えるが、目を凝らせば人であることが確認できた。
「へえ……」
男は口端をあげ、少し楽しげに人影へと足を向けた。
寒い……。なのに、あれ……暖かい。
包み込むような温かさを感じて、ユメはぼんやりと目を覚ました。冷たく硬いアスファルトはふかふかのベッドに変わり、身を切るような寒さは、柔らかな温かみを帯びてコーヒーの香りを漂わせている。
薄く開いた瞼の隙間から見えるのは、見覚えのない小さな部屋の様子。朝日を喜んで受け入れるカーテンのない窓。大きな姿見と古びた木製の机、高さのあっていないパイプ椅子、そしてユメが寝ているベッド。
「ここ、どこだろう……」
怪訝に思って体を起こすと、なぜか肌に違和感を感じた。
「え」
姿見に目をやるとユメは体に合っていない大きさのワイシャツにスウェットのズボンという姿になっていた。
「ええっ!?」
焦って大きな声が出て、とっさに口を手で封じたがもう遅かった。