(21)
「ううん。たいしたことじゃないから気にしないで」
「そうなの? ならいいんだけど……」
神妙な面持ちをする早紀をよそに、ユメは藤木の方を見た。
「藤木さん、やっぱりちょっと体調が優れないみたいなので、
先に上がらせてもらってもいいですか」
「? うん、わかった。
今日は朝から様子が変だったしね。ゆっくりしておいでよ」
藤木が目を細めると同時に「朝……?」と呟いた早紀の声が聞こえた。
ユメは聞こえなかったふりをして、引っ掛けてあったコートと鞄を取って足早に店を出た。
逃げたみたいだ。いや、実際逃げたのか。
薄暗い冬の住宅街をやみくもに歩いた。どこかの店に入ろうかとも思ったが、住宅ばかりで何もない。大学の方へ行けばよかったなと後悔しながらも、公園を見つけたのでそこのベンチに腰掛ける。
先に帰ると言って店を出てしまったので、あの店に住み込みで働いていることを余計に早紀に言いにくくなってしまった。
「はあ……もうどうしよう……」
ユメは膝を抱えて項垂れる。マフラーを忘れた。寒い。帰りたい。帰れない。もういやだ。いろいろな気持ちが溢れてくる。視界がにじんできたので瞼を強く閉じた。




