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「あ、いらっしゃいませ」
藤木は早紀に微笑みかけ会釈した。そして、そのままユメに視線を移す。
「ちゃんとがんばってるね、ユメちゃん」
そう一言かけた後、コートとマフラーを元の場所に引っ掛けて、キッチンの方へ回ってきた。後ろにある手洗い場で手を洗い、藤木は早紀に話しかけた。
「松本さん、今日もプログラミングがんばってたの?」
「い、いえ! 今日は一般教養のレポートです」
「そうなんだ、えらいね。僕には全然わからないんだろうなあ」
「そんなことないですよ! 英語とか苦手だし、また教えてほしいです」
「僕でよければ、おいで」
正直、驚いた。
いくら早紀が結構来ると言っても、ユメは二人がこんなに親しげに話すとは思っていなかった。ここで働きだしてまだ3日といっても、藤木と顔を合わせることは結構あった。それでも、ユメは藤木とこんな風に話したことはない。からかってくるか、無言か。だいたいそのどちらかだった。
早紀も早紀だ。いままで一緒に行動してきて、こんな風に大学の男の子に頼ったり、少しどもったりするところを見たことがない。
藤木はともかく、もしかしたら早紀は……。
「ねえ、ユメってば!」
自分を呼ぶ早紀の声に意識を呼び戻された。早紀も藤木もユメを見ている。
「ユメ、今日ずっとボーッとしてるけど、なんかあったの?」
「ううん! 何もないよ! ちょっと疲れてるのかも」
隣に立つ藤木を極力視界に入れないようにして、早紀に笑いかけた。
「あんまり無理しちゃだめよ。そうそう、さっきなんか言おうとしてなかった?」




