(2)
肌を刺すような寒さに我を取り戻したユメは、力なく足を止めた。無我夢中で走り続けたからか、たどり着いたのは通学に利用する小さな駅。
昼の様相とは大きく異なり、居酒屋を求める酒に呑まれたサラリーマン達で混雑している。
ユメはその間をすり抜け、改札口に吸い込まれるようにフラフラと改札を通って鈍行に乗った。
どこに行こうなんて考えてもいない。
そもそもユメには行く当てなど、あの家以外に存在していなかった。
ユメは車窓に軽く額を押し合てて、見慣れた街の中にかつては祖母とユメの家であった場所を探したが、あまりに遠くて、暗くて見つからず、次第に街が夜景に変わってゆく。しばらくすると夜景さえも闇に消えていった。
自分もあんな風に消えていくのだろうか、とユメは重くなった瞼を落とし、眠りに落ちた。
短い夢を見た。
幼いユメが、喪服を着た祖母の膝で嗚咽をあげて泣いていた。
それはユメの両親の葬儀の記憶。
現実を受け入れきれずに大声で泣き叫ぶユメの背中を、祖母の優しい手は何度も何度もさすった。
大丈夫……大丈夫――と。
「お客様、大丈夫ですか? 終点なのですが」
車掌はユメの肩を叩き、覗き込んだ。一気に目が覚めたユメはすぐに立ち上がって、
「すすすすすみません!」と早口に謝り電車を降りる。そのまま改札を出た後は、またフラフラと歩きだした。終点は、ちょうど大学の最寄駅だ。目的があったわけではないが、なんだか惰性で大学に足が向く。
どうせ、もう、通えはしないのだから。
そう呟いて、息を吐いた。息は白く凍った。深夜に向けてどんどん気温が下がっていった。
一度眠ってしまったせいか、電車が暖かかったせいか、体の芯が冷えてしまった。
そういえば、夜ごはんも食べていなかったな、と気付くとお腹も減ってきた。
ここまでか、ユメはふと思った。もうすぐそこに大学はあるけれど、行ったところで何の解決になるだろうか。
もう大学なんてやめてしまって、叔母の店で働かせてもらおうか――。
そんな考えがよぎって、ユメは自己嫌悪に陥り、道の端にへたり込んだ。でもどうすればいいか見当もつかなかった。
呆然とうつむくユメを雪が隠してゆく。白い牡丹の最期を思わせるような、美しく儚い牡丹雪。
静寂の空気と共に、ユメの心も凍ってゆくようで。ユメはもう一度目を閉じた。
ユメの瞼に牡丹が咲いては涙で溶ける。
もういい、祖母が死んだときに私も死ぬべきだったんだ、そんな考えがユメの頭を渦巻いて、しばらくすると何も考えなくなり襲ってきた睡魔に身を委ねた。