(18)
藤木は入り口の横にかけてあるにマフラーとコートを身につけて言う。
「ちょっと買い出し行ってくるよ。しばらくよろしくね」
「は……はい」
ユメは先ほどの体勢のまま、ドアに手をかける藤木の背中を見つめていた。
「それと」
藤木は少しユメの方に顔を向ける。
「もうユメちゃんをからかったりしないからさ。安心してよ」
一瞬自嘲にも見える笑みを見せて、藤木は店から出て行った。
嬉しい言葉のはずなのに、残されたベルの音は、なぜかまたユメの心とは反対だった。
一人になると、店内は一層寒く感じられた。
暖房は入っているものの、古い建物なのであまり効いていない。
「悪いことしちゃったな……」
ユメは椅子に腰掛けて、ぽつりと呟いた。藤木が置いていった布巾に指先が触れる。それをそのまま掴もうとした時、軽快なベルが鳴った。ユメはほぼ反射で立ち上がり、「いらっしゃいませ!」と言って入り口を見た。
「え……なんで? どうしてユメがここで働いてんの?」
「——早紀ちゃん」
早紀が立っていた。
なぜか偶然を喜ぶ様子ではなく表情に疑問が浮かんでいるようで、いつもの早紀ではないような感じがしてユメは戸惑った。
「この近くに引っ越ししてさ!大学の近くで求人探してたらここがちょうど募集してたから……。ごめんね! 言い忘れてたや」
「あ、そうだったんだ! ちゃんと言ってよー。びっくりするじゃん」
早紀がいつもの調子で笑ったので安心した。住み込みで働いているとは、なぜか言えなかった。こんなことは初めてだった。




