(11)
「ユメちゃん、君の仕事は……」
「おおおお断りします!」
ユメはふと我に返り、藤木から離れようと暴れた。しかし藤木はそれを許さない。
「駄目だよ。もう契約はしたからね。口約束でも、立派な契約さ」
藤木は淡々と言い、ユメの腕に力を込めた。少しの痛みが走り、ユメは眉をひそめる。
「それにどうして」
突然、藤木が立ち上がり、バランスを崩したユメはベッドに倒されて、その後を追うように藤木はユメに覆いかぶさった。
「いきなり辞めるだなんて言い出すのかな?」
「痛っ……」藤木に掴まれた両手首が軋む。
「ただ僕は君に、仕事をしてほしいだけなのに」
さっきまで氷のように冷たかった瞳に妖しさが宿った。せめてもの抵抗に、ユメは必死に藤木を睨む。
「仕事って……」
「だから、そんなに怒らないでよ。それとも、僕が怖いのかな?」
藤木は打って変わって、やけに楽しそうに笑う。そして、不意に顔を近づけてきた。思ってもみなかったことに、ユメは焦る。しかし藤木は一切の抵抗を許してくれない。ユメは涙目になりながら、目を強く閉じた。
「君の仕事は、モーニングのバイトだよ」
耳元で、藤木が囁いた。
「え」
意外な言葉に、ユメは目を見開いた。
散々脅すようなことをしておいて、何を言っているんだ、この男は。
藤木は心底可笑しそうに笑って、ユメの上から退く。呆然と仰向けになっているユメを見下げ、ひとしきり笑った後、藤木は説明した。
「僕、朝がすごく苦手でね。この店を引き継いで以来、モーニングなんてしてなかったんだけど。最近、常連さんたちから、喫茶店なんだからって文句言われちゃってね。困っていたんだ」
「……はあ」
「だから、君の仕事はここに住み込んで、大学に行く前にモーニングをすること」
「……はあ」
楽しそうに言う藤木を見てユメは項垂れた。じゃあ、さっきまでは何の余興だよ、と文句でも言ってやりたくなったが、やめた。どんなに嫌な奴でも、ただの学生を破格で雇ってくれるんだから、感謝しなくてはいけない。
ユメは、軽くため息をついて、起き上がろうとした。




