(1)
ついに身寄りを失ってしまった。
大学から帰宅すると、居間に叔母が偉そうに座っていた。
「え」
我ながら間の抜けた声だ。叔母は興味なさげに煙草を吹かす。
「アンタってもうすぐハタチでしょ。立派な大人じゃない。だからもう出てってくれない?」
たしかに宮下ユメは今年で20歳を迎える。しかしユメは大学生であり、バイトで稼げるのも小遣い程度である。自分で生活をしていく甲斐性なんて残念ながら持ち合わせていない。
「でも出ていくって……」
どうやって。なんで。ここは祖母と私の家だったじゃないか。
派手な身なりの叔母をじっと見つめた。いや、睨んだに近いかもしれない。
その態度にいらついたのか、
「大学なんてやめればいいじゃない。
もともとアンタにそんな権利なんてないでしょ。母さんの金使い潰しちゃって!」
叔母は怒気を強めた。きつい香水と煙草の匂いがユメの鼻をつき、吐き気がする。
正論といえば、正論だ。
祖母は貯金と年金を切り崩しながら、両親のいないユメを大学にまで行かせてくれていた。
「でも約束したの!おばあちゃんと!しっかり勉強して、大学を出て……」
そして、社会のために、人のために働きなさい――そんな優しく強い言葉も、ユメの視界もすべて涙で滲んで遠くに離れていく。悔しい。悔しい。
「知らないわよ、そんなの。私はあの人とここでお店やるから、アンタは邪魔なのよ」
あの人……新しい男か。
叔母は灰皿に残り少ない煙草を押しつけ、席を立つ。ユメは無言で忌々しい叔母の顔を睨んだ。
「……」
「とにかく母さんの金もこの家も、全部私のもの。
もともとアンタにくれてやるものなんて何一つないのよ!」
叔母は足元にあった旅行用バックをユメに投げつけ、ひらひらと手を振った。
「だから、はい、さようなら」
とても汚い笑顔だった。ユメは歯を食いしばり、バッグを抱きしめながら家を飛び出し、2月の夜の街を駆けた。どうしようもなくて、何もできなくて、悔しくて、悲しくて、現実から逃げるように走り続けた。
はじめての小説投稿です。至らない点も多くあるとは思いますが、
なにとぞよろしくお願いしますm(_ _)m