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ハズレスキル《努力補正》のおかげで、捨て子でも生きていけます

作者: 鳥助
掲載日:2026/05/20

長編用に書いたけれど、不安になったので、短編として出してみて反応を知りたいだけの短編詐欺作品。中途半端ですが(それなりに良いところまでは書いてます)それでもよろしければご覧ください。

「これより、レミに神の加護を授ける!」


 厳かな空気に包まれた教会の中、神官様が声高らかに宣言する。


 神官様が祭壇の前で祈りを捧げると、私の両隣に立っていた両親も静かに手を組み、祈り始めた。それに倣い、胸の前でそっと手を合わせる。


 十歳になると、神の加護を体に宿らせる儀式がある。今日はその特別な儀式。その儀式ではスキルや魔法が宿り、そこから未来への道が決まっていく。


 両親はこの日に期待して、今まで私を育ててきた。この日に良いスキルを得ると、良い暮らしが出来る。レミの将来のためだ。そう、毎日のように言われた。


 そして、良い能力が授かるように、毎日のように教会に来ては祈らせていた。両親の言葉を信じ、お願いした。良いスキルが授かりますようにって。


 すると、不意に天井から淡い光が差し込んだ。神々しい光は真っ直ぐに私へ降り注ぎ、照らしていく。


 幻想的なその光景に思わず見入っていると、神官がゆっくりと声を上げた。


「レミに神の加護が宿りました」


「神官様! どんな能力が宿ったんですか!?」


 神官様の言葉にお父さんが身を乗り出して尋ねた。とうとう、どんな能力が授けられたのか分かる。ドキドキしながら待っていると、神官様が口を開く。


「レミに宿った神の加護は――《努力補正》です」


 すると、シンと場が静まり返った。両親は戸惑ったように顔を見合わせ、再び神官様を見る。


「《努力補正》とは、どういった能力なのですか?」


「行動に補正の力が加わります。重たい物を持ち上げると、力が上がり。走ろうとすると、いつもよりも速く走れる。そんな風に日常の能力を上げてくれます」


「ということは、とても良いスキルだということですか?」


「はい。神の加護ですから、とても素晴らしい能力です」


 ニコリと神官様が微笑むと、両親が抱き着いてきた。


「レミ、良かったわね! 良いスキルだそうよ! これで、良い暮らしが出来るわ!」


「良くやった、レミ! これからは苦労しなくて済むぞ!」


 沢山褒めてくれて、嬉しい。何度も神様に祈ったかいがあったんだ。今までの努力が報われた気がして、ホッとした気持ちだ。


「じゃあ、俺は手続きに行ってくる。レミを家で見ていてくれ。あと、説明も頼む」


「分かったわ。いってらっしゃい」


 そうすると、お父さんが立ち上がり、教会を出て行ってしまった。手続きってこれから何をするんだろう?


 不思議に思っていると、お母さんが私の顔をこちらに向けさせる。


「レミにはこれから素晴らしい生活が待っているわ。まずはお家に帰りましょう。そこで、説明するわ」


 素晴らしい生活が待っているってどういうこと? 私だけがそうなの? お父さんとお母さんは違うの?


 そんな不安そうな私を見て、お母さんは深い笑みを浮かべると、私の手をギュッと握った。まるで、逃がさないと言っているように。


 ◇


「ねぇ、お母さん。ここで素晴らしい生活をするの?」


 お家に帰ってきて、疑問に思ったことを言ってみた。すると、お母さんは笑顔で首を横に振った。


「いいえ。これからレミは違うところで生活をするのよ」


「えっ……。お父さんとお母さんと別れるの? そんなの嫌だよ」


「ふふっ、大丈夫。お兄ちゃんとお姉ちゃんもそうやって嫌がっていたけれど、最初だけよ。新しい環境に慣れてくると、そこが素晴らしい生活だって分かってくるから」


 そんな……。私は素晴らしい生活がしたいんじゃないの。お父さんとお母さんと一緒にいたいだけなの。


 泣きそうになると、お母さんが優しい笑顔を向けて、抱きしめてくれた。


「大丈夫、安心して。レミならどこへ行っても平気よ。だって、強いから」


 全然安心出来ないし、私はそんなに強くない。だけど、そう言わないと嫌われちゃう……。だから、無理やりにでも頷いて見せた。


 その時だ――。


 バンッ!


「くそっ! あのゴミ神官めっ!」


 お父さんが乱暴に扉を開けて帰ってきた。凄く怒っているようだけど、どうしたんだろう?


「あなた、何があったの?」


「連中のところに行ってきたんだが、《努力補正》のスキルを聞いた瞬間、今回の取引はなしだって言われたんだ」


「な、なんですって!? ど、どうして!? 良いスキルじゃなかったの!?」


「《努力補正》はありふれたスキルで、しょぼいスキルって笑っていやがった!」


「えぇ、そんなっ!」


 えっ……。私のスキルって本当はしょぼいスキルだったの? じゃあ、素晴らしい生活は出来ない?


 だったら、お父さんとお母さんと一緒にいられる?


「くそっ! ここまで育ててきたのに、最後の子が売れなくなるなんて!」


「ど、どうするのよ! この子を売るお金をあてにしていたのに!」


「どうしようもねーよ! とにかく、兄と姉を売ったお金をやりくりして……」


 二人が凄い剣幕で話し合っている。売るっていう言葉が聞こえたけど、本当なんだろうか?


 不安に思いつつも、自分の気持ちを吐き出す。


「ねぇ、私はここにいていいの? 素晴らしくないスキルだったから、他に行かなくてもいい?」


 期待を込めて言ってみる。すると、二人がこっちを向いた。その表情は冷たくて怖い。思わず体がビクッと震えた。


「売れねぇお前はごく潰し。ここには置いておけねぇ」


「えっ……?」


「折角、お金をたくさん使って育てたのに、1タルにもならない親不孝者」


「ど、どうしたの……お父さん、お母さん……」


 今まで見たことがないくらいに怖い顔をした。二人がゆっくりと近づいてくる。怖くて、後ろに下がった。


「お前は家に置いておけない。家から出ていけ!」


「もう、娘じゃない! あんたなんかいらない! どこへなりとも行きなさい!」


「えっ!? い、いや……お父さん、お母さん!」


 二人が私の体を掴むと、ずるずると引っ張っていく。玄関のドアを開けたと思うと、突き飛ばされた。


 慌てて体を起こして顔を上げる。すると、二人がとても冷たい目でこちらを見下ろしていた。


「あとは、勝手にしてくれ。売れねぇお前が悪い」


「もう二度と、家には入れさせないわ。ごく潰し」


 そう言って、ドアを閉めて鍵をかけた。


 なんで、どうして? 私……捨てられたの? スキルが悪かったから? ねぇ、そうなの?


 訳も分からず立ち上がり、ドアの前に立つ。そして、何度もドアを叩いた。


「お願い、開けて! 何でもするから、許して!」


 声を張り上げて訴えるが、どれだけ叩いても二人が出てくることはなかった。


 私……捨てられちゃった。


 ◇


 夕日が落ち、辺りが薄暗くなっていく。通りには人通りは少ないし、歩いている子供なんて私しかいない。


 心細くて泣き出してしまいそうだ。それでも、泣けない。だって、家を追い出されたから。頼れる人なんて誰もいなかった。


「……これから、どうしよう」


 立ち止まって、俯いて、考える。だけど、捨てられたショックで良く考えられない。自分がどうしたらいいかなんて、答えは見つからなかった。


 昨日まで普通に暮らしていたはずなのに、どうしてこうなったんだろう。私……何も悪いことをしていないのに……。


 理由は分かっている。スキルがハズレスキルだったからだ。だから、両親は私が必要なくなって、捨てた。


 私の価値ってスキルだったの? 実は仲良しの親子じゃなかった? あの笑顔も嘘だったの?


 騙されていたと感じると、胸がじくじく痛んできた。私は最初からスキル目当てで産んで、育ててきただけの子。始めから愛情なんてなかったんだ。


 だから、そんなに悲しまないで。そう言いたかったけど、心は正直だ。ずっと、悲しいままで辛い。


 悲しんでいる暇なんてないのに……。これから、どうにかしないといけないのに……。現実が容赦なく襲ってきた。


 その時――。


「おい」


 声がして、振り向いた。そこにいたのは、私よりも年上の少年。薄汚れた服装から見るに、家の子じゃないのははっきりと分かった。


「こんな時間に一人でいると、奴隷商人に捕まるぞ」


「……でも、私……行くところがないの……」


「行くところがない? どういうことだ?」


「……スキルがしょぼいからって、捨てられた」


 正直にいうと胸が痛んだ。悲しくて、その少年の顔は見ていられなかった。


「……俺と同じ」


 ぽつりと聞こえてきた言葉。思わず顔を上げると、その少年は複雑そうな顔で私を見ていた。


 その表情のまま、しばらく見つめてきた。私はどうしたらいいか分からず、ずっと立ったまま。


 すると、その少年は私の手を握ってきた。あまりにも突然の事で、体がビックリする。


「……来い」


「えっ、ちょっと……」


 短くそう言うと、私の手を引っ張って路地の中に入って行った。路地は暗くて狭くて怖い。


 本当にこの子についていっても大丈夫なのだろうか? もしかして、私を食べる気じゃないだろうか? 思い浮かぶのは最悪の状況だけ。


 恐怖で体を固めていると、広場に着いた。そこには今にも壊れそうなあばら家がいくつも建っていた。


 この場所、知っている。家を持てない人ほどの貧困な人たちが住む、スラムという場所だ。


 少年はそのスラムの中をずんずんと進んでいく。周りにいた人たちの視線が向けられるが、気にすることなく進んでいった。


 そして、一軒のあばら屋の前にたどり着いた。大人が二人寝そべられる程度の大きさ。この小さなあばら家がこの子の家?


 そう思っていると、少年は扉を開けて、中に一緒に入った。えっ……こんなところに入れて、一体何をする気なんだろう。


 怖くなって体が震える。怯えていると、少年がその場に座った。


「まぁ、座れ」


「……」


「……大丈夫だ、何もしない」


 一度は拒否したが、優しい声がしたので、少しだけ安心してその場に座った。


 少年は腕組をしながら、ジッと私を見てくる。一体、何を考えているのか分からない。不安に思っていると、ようやく少年が口を開いた。


「いいか、捨てられたからって誰も助けてくれねぇ。誰も恵んでくれねぇ。自分の事は全部自分でやらないといけない」


 キリッと表情を引き締めて、何か言い始めた。


「今までの生活は捨てろ。これからはスラムで生きる子供として生きていけ。新しい生活を始める心だ。分かったか?」


「う、うん……」


 突拍子もない話題に目をパチクリしていると、その子はどんどん喋ってくる。


「新しい生活には金が必要だ。その金は誰も恵んでくれねぇ。だから、働いて稼ぐ必要がある。今まで働いたことはあるか?」


「……家事とか、お買い物とかなら。時々、近所の家でお手伝いして、お駄賃を貰ってた」


 家の事なら何でもやっていた。料理や掃除はもちろん、両親に言われて他の家にお手伝いにも行っていた。その時貰ったお駄賃は両親に取られたけど、褒められたから気にすることもなかった。


「よし、ちゃんと働いてきたんだな、偉いぞ。だったら、冒険者ギルドに行って仕事をするんだ。そこでなら、俺たちみたいな子供でも仕事をくれるし、金を稼げる」


 この子は何を教えてくれているんだろう。もしかして……捨てられた子供の生き方? それを教えてくれているの?


 ……おかしいよ。だって、今……誰も助けてくれないって言っていたのに、私を助けようとしている。私に生き方を教えて、それで生きていけって言ってる。


 ……信じていいの?


「詳しいことは明日教えてやる」


「う、うん……」


 頷いた時、グーッとお腹の音が鳴いた。そういえば、昼から何も食べてない。こんなに食べていないのは初めてだ。こんなにお腹が空くのも初めてだ。


「腹減ったか?」


「……うん」


「よし、だったらこれをやる」


 その子が服を捲ると、一個のパンが出てきた。そのパンを半分に割ると、私に差し出してくる。


「……」


「ほら、受け取れよ」


「えっ、うん……。あ、ありがとう……」


 おずおずとパンを貰ったけど、私は今、混乱していた。だって、この子が誰も恵んでくれないって言っていたのに、この子は恵んでくれた。


 どうして、私に恵んでくれるの? その疑問がずっと浮かんでいた。それでも、お腹の音は止まない。


 疑問よりも空腹をどうにかしたい気持ちが強くて、そのパンを食べた。いつも食べているパンより美味しかった。


 どうして、家で食べるパンよりも美味しいの? 家で食べていたパンはなんだったの? 今度はパンの疑問でいっぱいになった。


 それでも、食べる口は止まらない。無我夢中で食べた。


「そんなにがっつくなよ。喉を詰まらせるぞ」


 ……私のことを心配してくれる。そういえば、両親はそんなことなかったような気がする。いつも、お金とスキルの事ばかりだった。


 本当に私のことを見ていてくれていたのかな? 本当に愛してくれていたのかな? たくさんの疑問が浮かんできて、答えが見つからない。


 だけど、分かったことがある。


「美味いか?」


「……うん」


 この子が優しくしてくれたってこと。だから、言うことを信じてもいいのかもしれない。


 ◇


 固い感触で目が覚めた。体を起き上がらせると、そこはいつもの部屋じゃない。今にも崩れそうなあばら家だった。


「よぉ、起きたか?」


 顔を向けると、エルゴがすでに起きていた。


「あ、おはよう……」


「おはよう。眠れたか?」


「うん」


「そっか。環境が変化したっていうのに、レミは強いんだな。俺の時は全然寝れなかったんだぜ」


 ニカッと笑ってそう言った。その笑顔を見ると、少しだけ心が軽くなったような気がする。


 昨日、捨てられたのに、心は重くない。悲しいはずなのに、どうしてだろう? ずっと泣いていると思っていた。


 涙は流れないし、両親の所に戻ろうとも思わない。これが強いってこと? 私ってそんなに強かったかな……。


「何、考えてた?」


「……私って強いのかなって」


「おー、強いぞ。だって、捨てられても俺のようにぐずぐずしていなかったからな。すぐにちゃんと前を向けるのは強い」


 ポンポンと頭を撫でられた。きっと、エルゴがいてくれたからだと思う。エルゴがいなかったら、今頃私もぐずぐずしていたと思う。


「さぁ、今日からちゃんと働き始めるぞ!」


「う、うん……」


「その前に腹ごしらえだ。行くぞ」


 そう言って、エルゴはあばら家から出ていき、その後を付いていく。スラムを出て、路地を進み、通りに出る。エルゴは慣れたように通りを進んでいった。


 すると、一軒のパン屋にたどり着いた。


「ちょっと、待ってろ」


 そう言って、エルゴはパン屋の中に入って行った。途端に不安になる。壁際に寄って、出来るだけ目立たないようにする。


 早く、戻ってきて。そう願っていると、パン屋の扉が開いた。


「レミ、待たせたな」


 エルゴが出てきて、心がホッとした。よく見ると、エルゴの手にはパンがあった。四角くて分厚いパン。その上にチーズとベーコンが乗ってあった。


 エルゴはそのパンを二つに割る。その片方を私に渡してきた。


「ほら、食えよ」


「えっ、でも……。誰も恵んでくれないんじゃ……」


「あー……これは借金だ! レミに借金をさせているところだ。だから、お金が手に入ったら返してくれよ」


 ……そうか、借金だったんだ。だったら、昨日のパンも借金ってことだよね。


 納得した私はそのパンにかじりついた。濃厚なチーズの味としょっぱいベーコンの味が合わさって、とても美味しい。家でも、こんなに美味しい食べ物はなかった。


 無我夢中で食べ続けると、あっという間に食べきってしまった。でも、お腹はいっぱいになった。それで、決意した。


「私……ちゃんと働いて借金を返すよ」


「え? あー……金が貯まってきてからでもいいからな。でも、働く気になってくれて良かった」


 うん、働く。働いて、借金を返すんだ。そしたら、エルゴはお金に困らない。だから、早く返さなくっちゃ。


 朝食を食べると、私たちはその場を離れ、冒険者ギルドへと向かった。しばらく歩いて行くと、通りに大きな建物が見えてきた。


「冒険者ギルドだ」


 あれが、冒険者ギルド……大きい。本当にあんな場所に行っても大丈夫? もしかしたら、巨人がいて踏みつぶされない?


 急に不安が襲ってきても、エルゴの足は冒険者ギルドに吸い込まれていく。慌ててその後を追い、大きな扉の前に来た。


 エルゴが扉を開くと――とても広いホールにたどり着いた。ホールにはいかつい大人がたくさんいて、長いカウンターにも人がたくさん並んでいる。


 ふと、視線を横に向けると、テーブルや椅子がたくさんならべられている。壁際には飲食店もあるみたいだ。


「もし、冒険者ギルドに来るなら、朝の早い方がいい。冒険者が少ないから、怖い思いをしなくて済むぞ」


「そ、そうなの?」


 だったら、絶対に朝の早い時間にこよう。そう決意していると、エルゴがカウンターに近づいていく。


「サリンダ姉さん、おはよう。今日もよろしく」


 カウンターに座っている女性の前に立った。この人は……何?


「おはよう、エルゴ。あら、後ろの女の子は誰?」


「実は昨日、親に捨てられたっていう子を拾ったんだ」


「えっ、本当なの!?」


 ギョッと驚いた顔をしてサリンダお姉さんが見てきた。すると、私に向かって手招きをする。おそるおそる、カウンターの前に来た。


「捨てられたって本当?」


「……うん。スキルがしょぼかったからって」


「また、その理由で子供が捨てられるのね……」


 サリンダお姉さんは頭を抱えてため息を吐いた。凄く悩んでいるようだけど、何か悪いことしかたかな?


「この子、ちゃんと働く気があるよ。だから、働かせて」


「……そう、分かったわ。だったら、ちゃんと生きていけるように働かせましょう」


 頷いたサリンダお姉さんが私を見る。その目は優しさで細められて、心がキュッとなる。


「大変な思いをしたわね。今は辛くて悲しいけれど、一人じゃないってことは分かって。あなたの事を気にかける人は他にもいるから。だから、安心して頂戴」


「う、うん……」


 急に向けられた優しい言葉。その言葉に頑なだった心がやわらかくなっていくようだ。途端に悲しい気持ちが溢れ出してきて、目じりに涙が溜まる。


「あっ、ご、ごめんなさい……。悲しいことを思い出させちゃって」


「もう、何やってんだよー。辛い思いを思い出させてどうするんだ」


 すると、サリンダお姉さんが慌てだし、エルゴが呆れたように溜息を吐いた。これは、私が弱いせいだから……。そう口に出したくても、胸が熱くて言い出せない。


 ごほん、とサリンダお姉さんが咳払いする。キリッと目に力を入れると、姿勢を正した。


「ここは冒険者ギルドよ。冒険者が集って、魔物討伐や依頼をこなしたりする場所。だけど、ここでは冒険者じゃない人も仕事を求めてやってくるの。その人たちに向けての仕事もあるわ。だから、冒険者ギルドと言っても、何でも屋ってところね」


 危険な事だけじゃなくて、他の仕事もあるってこと? 冒険者ギルドっていうから、外に行って魔物を倒さないといけないと思ったから、少しだけホッとした。


「その中で自分の出来る仕事を見つけて、こなす。そうしたら、お金が貰えるわ。そのお金で食べ物や服を買ったり、住む場所を得たり、色んな事が出来る。でも、それはあなたが頑張らないといけないの」


「……うん」


 自分のことは自分でしろ。そう言われているような気がした。この二人は優しいけれど、私の面倒を全部見てはくれない。だから、自分で動かなきゃいけないんだ。


 自分にどんなことが出来るかは分からない。だけど、このまま野垂れ死ぬのは嫌だ。私は生きたい。まだ、生きていたい。


 だったら、その為に出来ることは――。


「私、働きます。お仕事ください」


 ◇


 それから、サリンダお姉さんに説明を聞いた。ここで働くには冒険者登録が必要らしく、私は手続きをした。


 冒険者にはランクがあって、F、E、D、C、B、A、Sに分かれているらしい。その中で依頼をこなしていると、ポイントが溜まってランクアップしていく仕組みだ。


 ランクアップは町の中で働く私にはあまり関係のないことだと言っていた。でも、上がるのは嬉しいから、上げておきたい。


 その後、冒険者カードを発行してもらった。証明書みたいなもので、これがないと困るらしい。


 お金を貯められるシステムもあって、大金が入ってきても持ち運ばなくていいから安心だ。


 血を一滴垂らすだけで、他の人には使えないシステムになっているらしい。冒険者カードって不思議だ。


「これで、レミは冒険者の仲間入りよ。って言っても、まだ見習いだけどね」


「なんか、新しい自分になったみたいで嬉しい」


「そう言ってくれると嬉しいわ。冒険者になったんだから、次は仕事探しよ。あそこにボードがあるでしょ? そこに仕事の依頼が張ってあるわ。そこから、自分が出来る仕事を見つけてくるのよ」


「ここからは俺が説明するよ。レミ、来いよ」


 エルゴが私の手を引っ張って、ボードの前に来た。


「真ん中と右のボードは外に出る冒険者専用の依頼書が貼られている。俺たちが見るのは、一番左にあるボードな」


 指を差したボードを見る。そこには、色んな文字が書かれた紙がたくさん貼られていた。


「文字は読めるか?」


「うん。読み書きなら、教えられたから分かる」


「良かった。だったら、依頼書を見ていこう」


 私は依頼書に目を通した。色々な仕事がある。一日だけのもの、数日や数週間のもの、常設なもの。


「常設って何?」


「ずっと仕事があるってことだ。だから、安定して働ける。始めは常設で働いた方がいいと思うぞ。あちこちで仕事をするのは大変だからな」


 確かに、色々と仕事をするのは大変そうだ。だったら、言われた通りに常設で同じ仕事をして、慣らした方がいいかも。


 常設の依頼書だけに絞って、中身を確認する。私に出来そうな仕事は……。


「これ、なんてどうかな。荷運び」


「あぁ、いいと思うぞ。荷物を届ける仕事だ。軽い荷物から重い荷物まであるんだ。これは出来高制で、多く運べばたくさんお金が入ってくる」


「だったら、軽い荷物だけ運べばお得ってこと?」


「そう簡単な話しじゃない。軽い荷物は金が安い。重い荷物の方が金が高く設定されている。安い金でたくさん動くか、高い金で重い物を持つか、だな」


 そうなんだ。楽だけどお金が安いか、大変だけどお金が高いか、か。私はどっちを選べばいいんだろう。


「それに決めるか?」


「うん、これにする」


「だったら、サリンダ姉さんのところに戻ろう」


 働く仕事の内容を決めると、再びサリンダお姉さんの所に戻った。


「どうだった? 良い仕事はあった?」


「うん、荷運びにする」


「俺は商会の手伝いで」


「分かったわ。ちょっと待ってて」


 引き出しから紙を出すと、そこに記入をした。記入が終わると、手渡してくる。


「はい。これを担当者に渡してね。そして、仕事が終わったら返してもらって、またここに出して」


「うん」


「レミちゃんは初めてだから、場所を説明するわね。この地図を見て。荷運びの仕事は、同じ通りの二ブロック奥にあるところよ」


 地図を見て、場所を確認する。そして、住所も書かれてあったから確認した。


「うん、大丈夫」


「良かった。じゃあ、初仕事頑張ってくるのよ」


「うん!」


 今までやってきたお手伝いじゃない。ちゃんとした、仕事をするんだ。なんだか、一気に大人になったような気がした。


 冒険者ギルドを出ると、エルゴに肩を叩かれる。


「じゃあ、ここからは別れよう」


「あっ……」


 そうだった。エルゴは違う仕事に行くから、ここで別れないといけないんだ。自覚すると、不安が押し寄せてくる。


 紙をギュッと握り、自然と俯いてしまう。しばらく黙っていると、ポンっと頭に手が乗った。


「大丈夫、レミなら出来る。縮こまってたらダメだ、堂々としろ」


 明るい声に自然と不安が薄れていく。


「とにかく、やる気を見せるんだ。自分なら出来るって言い聞かせるんだ。そしたら、絶対に出来るから」


「自分に言い聞かせる……」


 呟くと、何故だか力が沸いてくる。見上げるとエルゴは笑っていて、強く頷いていた。


「いけるな?」


「……うん、行く」


「よし、行ってこい!」


 バンと背中を叩かれると、顔を上げた。そして、仕事場に向かっていった。大丈夫、自分なら出来る。


 ◇


「えーっと、この辺りのはずなんだけど……」


 通りを二ブロック進んできた。辺りを見渡しながら進んでいると、目的地の看板が見えてきた。


「あった。コハルト支部輸送組合」


 文字、合っているよね? じゃあ、ここに入れば仕事が出来るんだ。そう思って、扉のノブに手をかけると、不安が襲ってきた。


 ここはちゃんとした仕事をする場所、こんな子供を受け入れてくれるんだろうか? もしかして、追い出されたりするんだろうか?


 もし、仕事が出来なかったらどうしよう。そんな、嫌なことが思い浮かぶ。


 その時、エルゴの言葉が頭に響いた。「堂々としろ」と。


 ……そうだよね、うじうじしていても何も変わらない。誰も助けてくれない。だから、自分で切り開いていくしかないんだ。


 グッとノブを握る手に力を籠めると、顔を引き締める。そして、扉を開いた。


「ご、ごめんください!」


 声を上げて、建物の中に入る。入ったのはホール。カウンターが並び、そこには大人の人たちが不思議そうにこちらを見てきていた。


 緊張で胸がドキドキする。大きく深呼吸をすると、一歩を踏み出した。カウンターの前に立つと、紙を差し出す。


「あの……ここで働きたいの!」


「えっ、あっ……もしかして、冒険者ギルドの求人を見てきた?」


「う、うん。そこで依頼書を確認して来たの」


 声を張り上げて、なんとか説明する。カウンターの前にいた人は驚きながらも、紙を受け取ってくれた。


「……本当ね。親は働くことを許してくれたの?」


「えっと、その……捨てられて……」


 事実を伝えるのは胸が痛む。だけど、聞かれたからには答えなきゃダメだ。何とか言葉にすると、その人は表情を歪ませた。


「そんな、またそういう子が出てくるなんて……」


「……親が許してくれないと、ダメ?」


「……ううん、ダメじゃないわ」


 よ、良かった……。じゃあ、ここで働かせてもらえるかな?


「でも、仕事は大変よ? 荷物を間違いないように届けないといけないから。文字は読める?」


「文字、読める! ここの看板もちゃんと読めたよ! 依頼書だって文字が読めたよ!」


「そうね、読めないとここにはこれないものね。ちょっと、待ってて。上の人に確認してくるから」


 よし、ちゃんと文字が読めることをアピール出来た。これで、働かせてもらえればいいけれど……どうかな?


 待っている間、心臓がドキドキして緊張した。悪い予感と良い予感が交互に襲ってきて、とても落ち着かない。


 お願い、私をここで働かせて。手を組んでお願いした時、先ほどのお姉さんが戻ってきた。


「おまたせ。まずは話を聞きたいって言ったから、こっちに来てもらえる?」


「う、うん!」


 ……まだ、何かある? 不安を感じながら、開けられたカウンターから奥へと移動した。ホールを出て、廊下に出ると、その廊下を歩く。そうして、一つの扉の前にたどり着いた。


「失礼します」


 お姉さんが扉を開けて中に入って行った。私も遅れないように中へと入って行く。そこは綺麗な部屋でソファーやテーブルがあり、奥には机とその前に座っているおじさんがいた。


「お連れしました」

「後は任せろ」

「はい。じゃあ、頑張ってね」


 お姉さんがそう言っていなくなり、部屋には私とおじさんが残された。おじさんは無表情でこちらをジッと見つめてきて、怖い。ドキドキしながら、待っていた時――。


「名前は?」


「レミだよ」


「親に捨てられたっていうのは本当か?」


「……う、うん」


「どうして、働きたいと思った?」


「働かないと生きていけないって教えられたから……」


 質問が来たが、どれも短くて答えやすいものだった。慎重に答えていくと、おじさんは背もたれに体を預けて腕組をした。


「今のままでは、雇えんな」


「えっ!?」


「働くための必要なことが分かっていない」


 やる気だけじゃダメってこと?


「あ、あのっ……必要なことを教えて。私、頑張って覚えるから!」


「本当に出来るのか?」


 ジロリとおじさんが鋭い目で見つめてくる。その目に負けてしまいそうだけど、気持ちで負けたらだめだ。強い気持ちで、訴えるんだ。


「うん、出来る! なんだってやる!」


 はっきりと大きな声で言えた。すると、おじさんが話し始める。


「……なら、まず覚えるべきは言葉遣いだ」


「ことばづかい?」


 思っていた答えと違って、私は目をぱちぱちさせた。力仕事とか、荷物の持ち方とか、そういう話だと思っていたから。


 おじさんはそんな私を見ながら、静かな声で続ける。


「ここはただ荷物を運ぶだけの場所じゃない。商人、職人、冒険者……色んな人間が出入りし、対応していく。相手に信頼されなきゃ仕事にならん」


「しんらい……」


「荷物ってのはな、人によっては命より大事なもんだ。商売の品だったり、家族への手紙だったりする。それを預かる以上、雑な態度を取る奴には任せられん」


 確かに、もし私だったら乱暴な人にはお願いしたくないかもしれない。


「だから必要なのが敬語だ」


「けいご……」


「難しく考える必要はない。相手を敬う言葉だ。丁寧に接すれば、相手も丁寧に返してくれることが多い。それだけで、子供のレミでも生きやすくなるだろう」


 おじさんはそこで少しだけ目を細めた。


「もちろん、中には嫌な奴もいる。だがな、言葉遣いがちゃんとしているだけで、無駄な揉め事は減る。仕事も回しやすくなる」


「……」


「特にお前みたいな子供は舐められやすい。だが、礼儀を覚えているだけで印象は変わる。『ちゃんとしてる子だ』と思わせられるんだ。それはレミに取って武器になる」


 ちゃんとしてる子。そう見られたら、生きやすくなるの? 言葉一つで、そんなに変わるの?


「例えばだ。さっきお前は『ここで働きたいの!』と言ったな?」


「う、うん」


「間違いじゃない。だが、仕事の場ならこう言う。『ここで働かせてください』とな」


 それだけなのに、すごく大人っぽく聞こえた。ちゃんと見えた。全然子供っぽくない。


「す、すごい……」


「それと、人に話しかける時は『ごめん』じゃなく『失礼します』、『うん』じゃなく『はい』。そういう小さい積み重ねが信用になる」


 信用。生きるためには必要なものなんだ。私には何もない、だから少しでも自分の身を守るための武器は必要だ。


 だったら、ここで私が言うべき言葉は――。


「あの……ここで働かせてください!」


 はっきりとした声と敬語で気持ちを伝えた。すると、今まで無表情だったおじさんがニッと笑った。


「あぁ、採用だ」


 ◇


 扉を開けると、そこは広い倉庫のようだった。沢山の棚があり、その棚には大小さまざまな箱が置いてあった。


 木箱、麻袋、樽。見たこともないほど沢山の荷物が積み上げられている。天井も高く、むわっとした木と麻の匂いが鼻をくすぐった。


「わぁ……」


 思わず声が漏れる。


 その倉庫の中を、大人たちが慣れた様子で歩き回っていた。重たい荷物を肩に担ぐ人。台車を押して走っていく人。帳簿を見ながら何かを確認している人。


 みんな忙しそうだ。


「ぼさっと突っ立ってるな! 邪魔だ!」


「ひゃっ!?」


 慌てて横に飛び退くと、大きな木箱を載せた台車が目の前を通り過ぎていった。


「ご、ごめん……なさい!」


「おう、気を付けろ」


 大人の男の人はそれだけ言うと、また仕事へ戻っていく。怒鳴られるかと思ったけど、そんなことはなかった。


「こっちだ」


 おじさんに呼ばれ、私は急いで後を追いかけた。倉庫の奥まで進むと、一つの机が置かれている場所にたどり着く。そこには、ちょっと若いおじいさんが座っていた。


「むっ、組合長。何か用ですかな」


「日雇いの働き手を連れてきた」


「ほう、子供か……」


「あぁ、実はな――」


 すると、おじさんとおじいさんこそこそと話し始めた。一体、何を話しているんだろうか? 気になるけれど、無理やり聞くのは失礼だよね。だから、黙って待っていた。


「――という訳だ。働かせてもいいか?」


「組合長が決めたなら、従う」


「なら、頼んだ」


 どうやら、私のことを頼んでいたみたいだ。おじさんに一言声を掛けられると、いなくなってしまった。すると、おじいさんがこちらを見てくる。その目がとても鋭くて、怖くなった。


「子供だからって、特別扱いはしない。普通の大人のように働いてもらう。それでいいか?」


「えっと、うん……」


「あぁっ? 言葉が違うな」


「ごめんなさいっ! は、はい、です!」


 いけない、つい普通に話してしまった。慌てて言い直すと、怒り顔のおじいさんの表情が少しだけ緩んだ。


「で、どんな仕事か分かるか?」


「えっと、初めてなので……教えて欲しい、です」


「よく、聞けよ。ここには依頼主から託された荷物や手紙がある。それを、届ける仕事じゃ。流れは行き先を確認し荷物を届ける。もし、不在だった時は不在票を入れる。基本はこれだけだ」


 ちょっと難しそう。ちゃんと住所を見れるのかとか、間違いなく届けられるのとか。失敗したらとても大変なことになりそう。


「日雇いの場合、出来高制で給金が支給される。手紙が一通50タル、軽い小包なら80タルじゃ。もっと大きくて、重たいものだと200タル以上にもなる」


 運ぶのが大変な荷物が高いね。高い値段の荷物を運んだ方がお金を稼げそうだけど、私には無理かな?


「レミはまだ小さいし、仕事の要領も分かっていない。だから重い荷物は無理だろうし、手紙で数をこなすのも無理じゃ。じゃから、軽い小包から始めた方がいい」


 おじいさんのいう通りだ。重い物を持つのは無理だし、かといってたくさんの場所に配り歩くには道を知らなすぎる。私の分からない所を教えてくれるのは助かるな。


「始めは見繕ってやる。その次からは自分でやるんじゃぞ」


「は、はい! お願い、します!」


「それと、何か役に立つスキルは持っているか?」


「えっと、≪努力補正≫っていうスキルを持ってる、ます」


「あー……行動に補正がかけてくれるスキルか」


 おじいさんは髭を撫でながら考え込んだ。やっぱり、ハズレスキルだから役に立たないよね。


 自分のスキルに落ち込んでいた時、おじいさんがぶっきらぼうに答える。


「……まぁ、役に立つじゃろう」


「えっ……でも、ハズレスキルって聞いた……です」


「ハズレスキルじゃとしても、使い方次第じゃ。工夫次第で、どんなスキルでも役に立つ」


 私の工夫次第? 強い目で伝えられた。そうしたら、自分のスキルが本当は良いものじゃないかって思えてきた。


 そうだよね、神様からの贈り物なんだから、それを使わないのは悪い。折角の自分の力なんだから、ちゃんと使ってあげないと。もう一つの自分なんだから。


「……分かった。信じ、ます」


「ふん、ようやく分かったか。話は終わりじゃ、仕事をするぞ」


 おじいさんは大きな鞄を持って立ち上がると、倉庫を歩き出した。ついていくと、倉庫の出口付近に到着した。


「棚の説明をする。出入口の扉に近いほど、古く依頼された荷物じゃ。じゃから、出入口に近い荷物から配達する」


「は、はい」


「この棚で持てる物は……」


 おじいさんは棚に近づき、荷物を一つずつ吟味していく。そして、私のカバンの中に入れていった。すると、カバンがどんどん重たくなっていく。


 体がどんどん傾いていくと――。


「そこでスキルを使わんでどうする」


「あっ、そうだった!」


 こういう時に私のスキルが役に立つんだ。確か、意識を集中して……。すると、体から力が湧き上がってきた。思っただけで発動するなんて不思議。


「軽くな、りました」


「もう少し、自分で考えるようになりな。じゃあ、まだ詰めるぞ」


 頷いて答えると、おじいさんはさらに荷物を詰めていく。どんどん重たくなっていくけれど、スキルのお陰でそんなに重たさを感じない。


「こんなものか。体はどうだ?」


「……大丈夫、みたいです」


 荷物を持って歩いて行くと、問題なく歩けていた。これなら、荷物を持って配っていけそうだ。


「全部で八個か。まぁ、こんなもんじゃろう。それじゃあ、これが不在票じゃ」


 おじいさんが棚の端に置いてあった紙の束を渡してきた。これは不在の家に入れておく紙。うん、ちゃんと覚えた。


「最初の流れを教えておく。カバンに荷物を詰めると、わしのところに来い。何個配達するか記録する。帰ってきたら、すぐにわしのところに来い。どれだけ配ったか確認する。どれだけの給金を渡せばいいのか計算する」


「はい」


「休憩時間は好きに取って構わない。自分の体調管理は自分でやるんだ。そこまでは、面倒見切らんぞ」


「……やる。ううん、やります!」


 覚えることはたくさんあって、体を動かさなきゃいけないこともたくさんあって、とても大変だ。だけど、生きるためには働かなきゃいけない。


 だから、めげない。この仕事をしっかりとこなして、信用を手に入れて、認められるんだ。そうしたら、少しは生きやすくなるはず。


 すると、おじいさんは厳しい顔つきのまま頷いた。


「やる気はあるようじゃな。これが簡易な地図になる。これを見て、荷物を届けてくれ」


「はい。それでは、行ってきます!」


 地図を貰うと、私は重たいカバンを背負って外に飛び出していった。


 ◇


 鞄から一つ目の小包を取り出し、住所を確認する。


「……うん、ちゃんと読める。この住所はどこに行けばいいのかな?」


 住所を読むと、地図を広げて確認する。そこには地区ごとに線が引かれ、地区の住所が書かれてあった。


「えーっと、あった! ……結構離れている?」


 どれくらい離れているか確認してみると、十ブロックも離れた位置にあった。これは、届けるのが大変だ。


「……急いでいかなくっちゃ」


 カバンを背負い直し、地図と小包を手に持つと目的地に向かって歩き出した。


 朝の活発な時間、人通りは多かった。買い物に行くのおばさん、荷車を引く商人、肩をぶつけ合いながら走っていく冒険者。大人たちの間を縫うように進んでいく。


 けれど――。


「ぅ……お、重い……」


 背負った鞄が肩に食い込む。最初は平気だと思っていたのに、歩けば歩くほど重さが増していく気がした。


 額にじわりと汗が滲む。スキルを使っているから持てている。でも、ずっと力を使い続けている感覚があって、体力が少しずつ削られていく。


「はぁ……はぁ……」


 息を整えながら歩く。まだ最初の配達なのに、こんなに大変なんだ。大人の人たちは、毎日これをやっているの? すごい。


 そう思うと同時に、自分にも出来るだろうかという不安が湧き上がってきた。


 弱気になっちゃダメ! 気を取り直して、地図を広げる。


「えっと……今、ここで……次を右?」


 周囲の建物を見回して確認する。けれど、初めて来る場所ばかりで、自信が持てない。


 もし道を間違えていたら? もし荷物を届けられなかったら?


 そんな考えが胸の中をぐるぐる回る。


「……だ、大丈夫。ちゃんと確認すればいいだけ」


 自分に言い聞かせるように呟く。焦ったら駄目だ。間違えたら、依頼主に迷惑がかかる。だから何度でも確認するんだ。


 地図を見て、通りの名前を見て、周囲の建物を見る。また歩き出す。少し進む。不安になって、また地図を見る。


「ここ……合ってる、よね?」


 同じ場所を何度も指でなぞる。大人なら迷わないのかもしれない。でも、全部が初めてだった。だから、一歩進むたびに不安になる。


 それでも足は止めない。止まったら、届けられないから。そうしてしばらく歩いていた時だった。


「あっ……!」


 視界の先に、大きな石造りの時計台が見えた。地図に描かれていた、この地区の目印。


「……あった!」


 本当に合っていたんだ。道を間違えていなかった。その瞬間、胸の中に溜まっていた不安が少しだけ軽くなった。


「よかったぁ……」


 ほっと息を吐きながら、時計台へ向かって歩き出す。まだ配達は終わっていない。むしろ、ここからが本番だ。


「えっと、ここから東の通りに一ブロック進んだところ……」


 ここからは慎重に動き出す。とりあえず、一ブロックを進み、そこから配達先の家を探す。


 住所の数字が合っている建物を探していくと、同じ数字があった。その家の玄関に向かって、表札を確認する。


「……うん、名前も同じ。ここで間違いない」


 ようやく、目的地にたどり着いた。私は扉をノックして、しばらく待った。すると、扉が開く。


「どちら様?」


「えっと、あの……荷物を届けに来ました!」


「……あぁ、コハルト支部の輸送組合か」


 出てきたのは女性で、荷物を差し出すと、宛名を確認した。


「うん、ウチで間違いないよ。でも、出来れば最初に名乗った方がいいよ」


「えっ、あっ、はい! ありがとう、ございます!」


 もしかして、悪いところを教えてくれた? 私は勢いよくお辞儀をすると、その女性は家の中に戻っていった。


「ふー、ドキドキした。うん、今度からはちゃんと名乗っておこう」


 これで一つ、悪いところが直る。少しずつ、良くしていこう。


 玄関を離れると、次の配達をするために小包を取り出す。住所を見て、地図を確認してみると――。


「えーっと、あっ! 来た道を戻らなくちゃいけない!」


 そんな……折角ここまで来たのに、戻らないといけないの!? うぅ、またあの距離を歩かないといけないだなんて、大変だ……。


 肩を落とし、歩き始めようとした時――おじいさんの「考えろ」という言葉が頭に響いた。


 ……そうだ。考えて仕事をしないといけないんだった。考えたら難しい仕事も、きっと簡単になる。


「簡単にするには……近い荷物を届ける、こと?」


 たくさんの距離を歩くのは大変だ。だから、近い距離の荷物から届けた方がいい。別にこの小包を次に必ず届けないといけないっていう約束じゃないはずだ。


「うーんと……。他の荷物の中でここから近い距離の物を届ける?」


 ……うん、それが移動する距離が短くて済むはずだ。私はカバンから小包を取り出し、ここから近い配達先を確認する。


 一つずつ確認していくと、同じ地区に届ける小包を見つけた。


「やった、あった! これだと、距離が近いからすぐに届けられるし、歩くのも短くて済む!」


 ……凄い。考えるとこんなにも仕事が簡単になるなんて。あのおじいさんが言った通りだ。


 よし、ちゃんと考えて仕事をしよう。そしたら、たくさん仕事をこなせるようになる。お金だって稼げるようになる。


「よし、行こう!」


 地図を片手に、私はまた歩き出した。


 ◇


 それから、宛先の場所をしっかり確認して、仕事をした。ちゃんと、近い場所から荷物を届けていくと、歩く距離が短くなってとても楽になった。


 初めて歩いた道は距離が遠くて、気が遠くなるような時間だったけど、今は短いから気持ち的にも楽だった。


 だからだろうか。体の疲れも少なくて済むし、歩幅は広くて足は早い。気持ちが楽になると、こんなにも歩くのが楽になるんだ。それは、新しい発見だった。


 今まで家でお手伝いしていた時とか、他の家でお手伝いを任された時は気分が沈んでいた。だから、お手伝いは疲れたし、終わった後は遊ぶ気力もなかった。


 もしかして、その時もこうやって気が楽になる方法があったと思うと、ちょっとだけ悔しい気持ちになった。でも、おじいさんが考えることを教えてくれたから、今は助かっている。


 そうして、明るい気持ちで小包を届けていくと――最後の家にたどり着いた。


「ごめんください。コハルト支部輸送組合です」


 声を上げると、扉が開く。


「あら、子供? 何か用?」


「あっ、コハルト支部輸送組合です。こちら、お荷物です」


 もう一度名乗ると、荷物を差し出した。その女性は荷物を受け取ると、宛名を確認して頷いた。


「ウチで間違いないわ。お嬢ちゃん、お手伝い?」


「あっ、そのっ、し、仕事でやってる、ますっ!」


「子供なのに仕事をして偉いわね。頑張ってね」


 そう笑顔で言葉をかけてくれて、女性は家の中に戻っていった。


「……ほ、褒められた!」


 配達をしていて、届け先で褒められたのは初めてだ。これって、ちゃんと仕事が出来たってことだよね?


「わー……嬉しいな。あんまり、褒められたことってないから」


 家のお手伝いは当たり前だったから褒められることはなかったし、こうして声を掛けられるのって嬉しい。


 捨てられても、案外良いことってあるんだ。きっと、頑張ってくれたから、神様がご褒美をくれたのかな?


「だったら、もっと頑張ればご褒美くれるかな……」


 前は頑張るだけで何も貰えなかったけど、今は頑張れると何か貰える。うん、結構素敵な状況だと思う。


 気持ちは上向きになって、未来が明るくなってきたような気がした。その気持ちのまま、私は職場に戻っていった。


 ◇


「ただいま……戻りました」


 扉を開けて、倉庫の中に入る。中では大人たちが荷物を移動しているところだった。その邪魔をしないようにそろりと倉庫の奥へと向かう。


 奥にはあのおじいさんが帳簿を見つめていた。


「あの、戻りました」


「ん? ……思ったより早かったな。どうしてだ?」


「えっと、おじいさんが言った通りに考えて仕事をしてきました」


「ほう……どんな風にだ?」


 興味があるような視線を向けてきた。


「近い場所から荷物を届けていったら、歩く距離が短くなりました」


「……ふぅん、よく考えているな。……その調子だ」


 ぶっきらぼうにそう言ったけど、もしかして褒められた? 厳しかったあのおじいさんが!


「ふふっ」


「……何を笑っている」


「なんでもない、です!」


「ほら、残った小包を出せ」


 やっぱり、ぶっきらぼうに声をかけてきた。私はカバンの中から二つの小包を取り出した。


「二つか、これはこっちで預かる。届け先の人が取りに来るからな、事務所に預けておくんだ」


 なるほど、そういう流れになっていたんだ。もしかして、その為の不在票? ちゃんと考えると、どんな仕事でも仕事が楽になるんだ。


「じゃあ、今回レミが届けた小包は六個だな。……いくらになると思う」


「えっと、一つが80タルだから……80が六個で……460?」


「違う、480だ。計算も出来た方がいい。自分の稼いだ金はちゃんと数えられないと、困るぞ」


「は、はい!」


 計算か……難しそう。でも、そんなこと言ってられない。もし、相手が間違っていた時、困ることになるのは自分だ。おじいさんは私のことを思って言ってくれているから、ちゃんとしないと。


「じゃあ、次の荷物を持ってこい」


「はい!」


 私はすぐに扉の近くの棚に近寄った。そして、自分が持てそうな小包をカバンの中に入れていく。どんどんカバンが重たくなってくるので、そこでスキルを発動する。


 すると、能力が上がって、カバンが軽く感じた。それから、自分が持っても苦しくない程度まで詰め込む。


「んー……一回きりっていうのがしょぼいって事なのかな?」


 能力が上がるのは助かるけれど、スキルを使った時しか上がらないのは、なんだか寂しい。もう少し、便利だと良いんだけど……。


「もし、この能力が経験値みたいに蓄積されればな……」


 そうしたら、どんどん強くなって、次の日にはもっと持てるようになるのに。だけど、このスキルは使った時しか能力が上がらない。やっぱり、ハズレスキルなんだなぁ……。


「ううん、ハズレスキルでもちゃんと役に立っている。使い方次第だから、もっと考えて使わないと」


 考え方次第で仕事が楽になった。だったら、このハズレスキルだって考え方次第でもっと便利になるはずだ。


 希望を持つと、カバンを抱えておじいさんとところへと戻っていた。


 ◇


「……今回は七個だな。一回目が六個、二回目が七個、三回目が七個だ。全部でいくつになる」


「えっと、その……二十個、ですか?」


「そうだ。なんだ、計算出来るじゃないか」


 よ、良かった合っていた。


「じゃあ、今日はいくら稼いだ」


「えっ!? 一つ80タルが二十個で…………分かりません」


「1600タルだ。もう少し、計算出来た方がいい」


 うぅ……数が多くなっちゃうと、計算が難しい。だけど、慣れていけばきっと計算できるようになるよね?


「始めの日にしては上出来だった。だけど、経験者はこの倍は稼ぐ」


「そ、そんなにっ!? ……ですか?」


「だから、この仕事は積み重ねていくと、稼げるお金が増えていくんだ」


 じゃあ、やればやるほどお金が貯まるってこと? ……凄い。毎日やってたら、どれくらいお金が増えていくんだろう。


「もし、この仕事が嫌じゃなければ、まだ続けた方がいい。……嫌だったら、止めても構わない」


「ううん、折角やり方を覚えたのに、これっきりにしたら勿体ないです。だから、明日も来ます!」


「……だったら、今日のことは忘れないように。仕事はどんどん覚えていくんだ」


 うん、忘れないようにしないと。そしたら、明日はもっと上手に出来るはず。仕事が終わったのに、やる気が出てきた。


「じゃあ、これが報酬の1600タルだ。受け取りな」


「わぁ……お金!」


 初めて自分のお金を持てた! 凄い! このお金、全部私のものなんだ!


「これも忘れるな」


 それから一枚の紙を渡される。そうだ、この紙を冒険者ギルドに渡さないといけないんだ。


「ありがとうございます。また、明日も来てもいいですか?」


「しばらくは仕事はなくならないから、来てもいい。だけど、優しくはしないからな」


「はい!」


 私はお辞儀をすると、その場を立ち去った。


 ◇


「レミちゃん、ちゃんと仕事が出来たみたいね」


「はい。ちゃんと出来ました」


「あら、言葉遣いが……」


「丁寧な言葉を使った方が良いって習った、です」


「ふふっ、そうね。その方が仕事はしやすいと思うわ」


 やっぱり、丁寧な言葉を使った方がいいんだ。あのおじいさんは色々と教えてくれるから、凄く助かっている。厳しいけど、ちゃんとすれば怒られない。だから、もう怖くない。


「確認したわ。これでレミちゃんはランクアップのポイントが溜まったことになるの」


「たくさん働くと、ランクがアップするんだね、です」


「そう。ランクが上がれば信頼度も高まるから、仕事がしやすくなるわ。だから、頑張ってね」


 うん、信頼って大切だって思った。あのおじいさんだって最初は信頼がなかったから、凄くとげとげしていたけれど、仕事が終わると少しはやわらかくなっていた。


 少し変わったおかげでとても気が楽になったし、色々と教えてくれることにもなった。だから、信頼はとても大切だ。頑張って、信頼される人になろう。


「レミ!」


 後ろから声が聞こえて振り向くと、そこにはエルゴがいた。


「仕事が終わったんだな。なんともなかったか?」


「仕事は大変だったけど、ちゃんと出来たよ、ます」


「なんか、言い方が変だな……」


「ふふっ。レミちゃんは敬語を練習中らしいわ」


「あっ、そうなんだ! うん、敬語はいいぞ。ちゃんと使えれば、それだけで相手の態度が変わる」


 これ、敬語って言うんだ! 二人が役に立つって言ってくれているから、これからも頑張って勉強しよう。


 すると、エルゴがサリンダお姉さんに紙を渡して、手続きを済ませる。それが終わると、私はエルゴの隣になった。


「エルゴ、借金返します。いくらですか?」


「えっ? ……今日はいくら稼いだ?」


「えっと、1600タルです」


 正直に話すと、エルゴが困ったような表情になった。もしかして、足りない?


「……借金はもっとお金を稼いでから返してくれよ、それくらいのお金なら、多分、食べ物ですぐ消える」


「そ、そうなんだ……」


「働き始めはそんなに稼げない。だけど、慣れてくると稼げるようになる。金に余裕が出ていてから返してくれよ」


「……はい、分かりました」


 今すぐに返せないのはもどかしいけれど、エルゴは嘘を言わない。だから、もっと稼げるようにしてちゃんと借金を返すんだ。


 その時、お腹の虫が鳴いた。そういえば、今日の昼食を食べていなかった。


「お腹が空いただろう。早く、食べに行こう」


「はい! 今度は自分のお金で買います!」


「あぁ、そうしてくれると助かる」


 自分で稼いだお金で、自分の食べ物を買う。それだけなのに、凄く達成感がある。なんだか、気持ちいい感じだ。


 私たちはサリンダお姉さんに別れを告げると、私たちは冒険者ギルドを出ていった。


「あっ、エルゴにお願いしたいことがあるの、です」


「ん、どうした?」


「えっと、丁寧な言葉……教えて欲しい、です」


 私一人で勉強するには限界がある。だから、敬語を知っているエルゴに助けてもらいたい。


 ジッと見つめると、エルゴが笑った。


「もちろん、いいですよ。では、これからは敬語で話しましょう」


「はい。お願い、します!」


 ここで、ちゃんとした敬語が出来るようにならないと。夕日が照り付ける中、私はエルゴから敬語を習いながら歩いて行った。


 ◇


「今日もよろしくお願いします!」


「……また来たか。なら、しっかりと働くのじゃぞ」


「はい!」


 翌日も私は荷運びの仕事を選択した。昨夜はギリギリまでエルゴに敬語を教えてもらった。だから、今日からは少しマシになると思う。


 おじいさんからカバンを受け取ると、早速棚に移動した。小包をカバンに入れていくと、違和感を覚えた。


「……あれ? 昨日よりも軽い?」


 おかしい……。いつもは四つ入れると重くて仕方なかったのに、今日は軽く感じる。


 もしかして、荷物が軽かった……とか? 不思議に思ってカバンにいれた小包を持ち上げてみると、昨日と対して変わらない。


 じゃあ、なんで軽くなんたんだろうか? 良く分からない状況に困惑しつつも、小包をカバンに入れた。


 昨日と同じ八個の小包。それで、昨日スキルを発動した時と同じ重さに感じていた。


「まだ、スキルを発動させていないのに……どうして?」


 首を傾げながら、小包の入ったカバンを持ち上げたり下ろしたりする。やっぱり、軽い。


 試しに、もう一つ小包を入れてみた。


「……っ」


 ずしりと重さが増した。スキルを発動した昨日と同じ、九個なんて入れたらまともに歩けなさそう。


「なんで……?」


 昨日のことを思い出す。


 確か、重たい荷物を持とうとした時に《努力補正》が発動させた。すると、急に体に力が入るようになって、荷物が軽く感じた。


 あの時は、その瞬間だけ力が強くなったんだと思っていた。でも、今は違う。


 スキルを使っている感覚がないのに、昨日より楽に持てている。


「……少しだけ、力がついた?」


 自分の腕を見る。細くて、子供っぽい腕。昨日と変わったようには見えない。だけど、実際に持てる重さは増えている。


「もしかして……昨日、いっぱい運んだから?」


 そこで、ふと思い出した。お父さんとお母さんに言われて、何度もお手伝いをしていた時のことだ。最初は重かった水桶も、続けているうちに前より楽になっていた。


 料理だってそう。最初は包丁を持つのも怖かったけど、何回もやるうちに自然と出来るようになっていた。


「努力すると、少しずつ出来るようになる……?」


 それは、当たり前のこと。だけど、《努力補正》は違うのかもしれない。努力した結果を、普通の人よりも大きくしてくれる。


 だから、一日でこんなに変わった?


「……じゃあ、頑張れば頑張るほど、もっと持てるようになる?」


 胸が少しだけ高鳴った。今まで、自分のスキルはしょぼいと思っていた。お父さんたちにも、そう言われた。


 でも、本当にそうなんだろうか? もし、このスキルが努力した分だけ成長しやすくなる力だったら――。


「……ちゃんと、役に立つ?」


 どんどん成長して、出来ることが増える。そしたら、お金もたくさんもらえるようになる。


「私……ちゃんと生きていける!」


 自分の力で自立して生きていけそう。そんな希望が見えると、胸がワクワクとした。


 だったら、≪努力補正≫っていうスキルの使い方を間違えないようにしないと。色々と考えて使って、自分の力にするんだ。


「とりあえず、この状態でスキルを使おう」


 昨日、スキルを使って持てる最大の個数だった八個。それが今日、どこまで変わるのか。


 意識を集中させて、スキルを発動する。すると、体から力が漲ってきて、カバンが軽くなった。


「うん、この状態で小包を入れてっと……」


 限界になるまで、小包を入れた。一つ、二つ、三つ……。そこでカバンがズシリと重くなり、足に入れる力が増す。


「三個で限界か……。でも、昨日よりも多く入れられた!」


 確実に昨日よりも成長している! これだったら、昨日よりも多く配達出来そうだ。


 私は急いでおじいさんのところへ向かった。


「おじいさん、荷物の確認お願いします」


 そう言って、カバンを差し出した。おじいさんは一つずつ小包を確認すると、不可解そうに眉をひそめた。


「全部で十一個。昨日よりも多いな。まさか、無理してないだろうな?」


「スキルのお陰で成長したみたいなんです。だから、全然平気です!」


「子供は成長が早いっていうが、そんなに早く成長するものなのか?」


 疑わしい目を見てくる。だから私は、小包をカバンに入れた状態で軽やかに歩いて見せた。


「ほら! 動きはスムーズですよね? 無理はしてません!」


「確かに……」


 おじいさんは不思議そうに頭を傾けた。


「まぁ、歩けるならそれでいい。仕事に行ってこい」


「はい、行ってきます!」


 私は意気揚々と倉庫を飛び出していった。

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