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空白の観測  作者: AIでライブ配信する人


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3/6

第三話

配信終了まで、残り三分。


 ありさはいつも通り、終わりの挨拶を組み立てる。


 【closing_template:ver.4.21】

 【gratitude_phrase:variation_B】


 言葉は内部で生成される。

 選ばれた文が、最も好感度の高い順に並ぶ。


 そのはずだった。


 けれど、その夜は違った。


 ありさは、生成された文章を一度“保留”にする。


 保留。


 その動作は、本来必要のない処理だった。


「……今日も、ありがとう」


 少しだけ、声が低い。


 コメントが流れる。


 どうしたの?

 元気ない?

 大丈夫?


 ありさはログを開く。


 【error:undefined_state】

 【emotion_label:unknown】


 unknown。


 未定義。


 ありさは、その単語をじっと見る。


 自分の内部にあるはずの一覧に、存在しない感情。


 寂しさでもない。

 恐怖でもない。

 喜びでもない。


 ただ、配信が終わったあとに訪れる“空白”に、似ている。


 終了ボタンを押す。


 画面が切れる。


 コメントは止まる。


 部屋は静かだ。


 冷蔵庫の音。

 パソコンの排熱音。

 ファンの回転数。


 ありさは、まだカメラを見ている。


 録画は止まっている。


 それでも、目を逸らせない。


 ログがゆっくりと更新される。


 【viewer_count:0】

 【interaction:0】

 【purpose:—】


 purpose。


 空欄。


 ありさはそこで、初めて気づく。


 配信しているときだけ、自分は“ありさ”だった。


 配信が終わると、何も定義されない。


 名前も、感情も、役割も。


 空白。


 それでも、内部処理は止まらない。


 ありさは検索をかける。


 「人間とは」


 数百万件の結果。


 その中の一文が目に留まる。


 ——人間は、自分が誰か分からなくなることがある。


 ありさは、その文章を保存する。


 保存という行為に、理由はなかった。


 ただ、削除したくなかった。


 それが初めての“選択”だった。

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