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第9話

「えっ」


 慌てて立ち止まる。声は裏路地の方からした。

 困ったな。召集かかってるのに。

 しかし基本的に隊員は人命救助第一なので(むろん例外もあるが)、とりあえず私は声のする方に進んだ。

 真夜中。こんなときに誰がなにをしているのか。それも裏路地で。まあ十中八九事件だし犯罪だろう。女性の声のようだったから、可能性としては強姦魔……。

 それなら私が行ってもな、とは思ったが、犯人が超人でもなければ問題ないだろう。


「誰か、ひっ……いや、い゛っぁ゛、がっ…………」


 そこには、今まさに無茶苦茶に蹴られている女性がいた。真っ赤な血と生臭いにおい。ああ、よく知っているものだ。

 蹴っている男の顔は見えなかった。私に背を向けていたからだ。しかし思いの外細身であったことに驚いた。背も私より高いとはいえ、高校生程度に見える。

 私は完全に背後を向け私が見えていない彼にバッとタックルした。


「は……ッ!?」


 男は思いきりふっ飛んだ。まあ超人相手なら皆そんなものだ。そのままコンクリートの壁に押さえつけ、首元に一度拳をぶつけた。

 う゛っ、と男が呻いて体が弛緩する。気絶したのだ。死んだらまずいので手加減はしたつもりだが、いかんせん私は普段手加減する仕事はしてない。うん、……死んでなきゃ良いな。


「卑怯者には卑怯な手で……ってね。もし殺しちゃってたらごめん」


 そう話しかけるけど、返事はない。

 とりあえず体を男から離して、女性の方を見た。改めて見ると酷い状態で、両手両足胴体顔に至るまで、あらゆるところに痣がある。

 私は彼女に近付き、その体に触れた。しかしピクリとも動かない。……こっちの方がヤバいかも。

 スマホを取り出して緊急通報ボタンを押す。応答があったのはすぐだった。


『はい、こちら警察。事件ですか事故ですか』

「事件です。裏路地で女性が殴られて意識がありません。すぐに来てください」

『分かりました。付近に犯人と思われる人物はいますか』

「もう取り押さえて気絶させました」

『えっ? は、はい、分かりました。とりあえずすぐ警察を向かわせます』


 戸惑い気味の警察だったが、返事はハキハキしていた。それにしても、警察の世話になるのは久しぶりだな……。

 新人隊員だと色々揉めやすくて、警察沙汰はしょっちゅうだった。しかし一年も経てば、そんな機会めっきりなくなってしまう。

 隊員にとって警察沙汰を起こすことは恥ずべきことで、未熟者の証とも考えられている。だからなんとなく気まずいし、色々引き継ぎだけしてすぐ切り上げたいのが本音だ。

 暇。女性に自己修復能力強化をかけられたら良かったのだが、あいにく今は本当に力が足りてない。これ以上使ったら反動で一ヶ月は使えなくなる……それが分かっているからこそ、下手に動くことはできなかった。

 早く来るかと思ったが、五分経っても来る気配がない。流石にそろそろ私も本部に行きたいのだが……更に十分待った。しかし来ない。

 私は諦めて、とりあえず男性の両腕に手持ちの拘束キューブを当てた。ぶよん、と男の身体がキューブに包まれる。別に死ぬことはないが、それなりに息苦しいのではないだろうか。身動きもとれないだろうし、丁度良い。できれば工具で外せるリストバンドやロープが好ましかったが、仕方ない。

 女性には私の来ていたジャンパーをかける。警察が来るまで、申し訳ないがここにいてもらおう。それにしても最近の警察はなんなのか。ここから警察署まではそんなに遠くなかったはずなのだが。

 立ち上がり、走り出す。一度振り返ったが、女性は起きる気配が全くなかった。

 ……もし、この人が脳卒中になっていたらどうしよう。そんな不安がよぎる。だが、そうだとして、私にできることがあるのだろうか?


「力を使えば……助かるかもしれない」


 だが、緊急召集があったということは、確実に大勢が死ぬような危険が迫っているということだ。そこで私が力を使えなければ……いや。

 私には、仲間がいるのだ。


「自己回復力、強化」


 私は女性に触れ、ぐっと力を注ぎ込んだ。

 ああ、頭がクラクラする。どんどん力が抜けていく。気持ち悪い。今にも倒れそうだ。

 視界がかすみ出した時だった。


「……ん、」


 女性が身じろぎした瞬間、全身から全ての力が抜けたのが分かった。

 これ以上は、無理だ。


「警察を呼んでおきました。ここで待っていれば、すぐに助かります」

「あ、え、あなたは……」

「急いでいるので」


 私は女性の体をそっと地面に下ろし、改めて走り出した。


「ちょっ、待って……!」


 後ろから焦燥の混じった声が聞こえた。だが、後ろは振り返らなかった。

 急がなければ。町の道路を走っていく。不自然なほど生き物の気配がしない。背中にどんどん電気が集まっていく感覚がある。これは……まさか危険度A+か?

 突如、町のスピーカーが音を発した。サイレンの音が街中に響き渡っている。


『住民の方々は速やかに避難してください。ここは危険です。速やかに避難してください。公共交通機関は現在、札幌駅出発の電車のみとなっております。緊急列車のため運賃の支払い義務は発生しません。最終列車は3時12分発。車での移動の場合は充分注意をした上で、指定の道路のみを利用し、最高時速60㎞で駅まで移動してください。繰り返します……』


 札幌駅はここから10kmも離れた場所にある駅だ。およそ16分でそこまで行くのは、車でも通常無理である。しかし、そもそもこの付近には隊員以外があまり住んでいないことに加え、指定の道路とあるように、全員が使う道路が決まっている。信号は全て青となり、高速道路と同じスピードで走っても問題ない道路だ。そのため、避難に慣れている住民が緊急通達を聞きすぐに避難すれば、余裕で間に合う。

 今私が走っているのは隊員専用道路で、非常時には一般人の立ち入りが禁止される場所だ。そのため、速く走る車とぶつかる心配もない。

 暗闇の中で雨粒の音が強まっていた。両手両足に寒さが染み入ってくる。夜はまだ長い。

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