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第64話


 やった!

 私は嬉しくなって目を輝かせた。

 持ってきた弁当をとってきて、蔵田さんたちと共に移動する。

 やってきたのは道場の隣にある堂間さんの家。キッチンに行くと、そこには古めかしい古き良き日本の飾りガラスとつやつやの水場があった。


「今日は卵と鶏肉があるんで、親子丼を作るっす」


 蔵田さんが昨日と同じようにエプロンを着て言った。

 昨日知ったのだが、蔵田さんは料理上手だ。私も一口食べさせてもらったが、めちゃくちゃおいしかった。

 神藤さんは当然のように自分もご馳走になる気らしく、リビングの椅子に座って堂間さんとなにやら話している。

 昨日、弁当を持ってこなくても、二人の分も作ると蔵田さんに言われたが、流石にそれは申し訳ないので私は断った。堂間さんは当然だと言った。

 本当にこの人は遠慮がない。


「私も手伝います」

「いや、いいっす。それより、今日も弁当一口もらってもいいっすか?」

「全然いいですよ。私も、一口もらってもいいですか?」

「もちろんっす」


 心なしか嬉しそうな顔を浮かべる蔵田さんに、私も嬉しくなる。

 弁当は私が毎朝作っているもので、大したものではない。しかし、蔵田さんには新たな料理の開拓という目標があるらしく、できるだけ色んな人の料理を食べたいらしい。

 私はお弁当片手に意気揚々と神藤さんの隣に腰掛けた。

 神藤さんはというと、堂間さんと何を話しているのかと思えば、どちらが強いかで言い争っているようだ。


「誤解を恐れずに言うなら、私の実力は既に堂間さんを超えていると思いますがね」

「何を馬鹿なことを。何度も言っておるが、お主はまだ真の高みには到達していない。そんな状態ではとてもわしを超えることはできんよ」


 真の高み。それは一体何なのだろうか。

 不思議に思って、私は二人の間に口を挟む。


「堂間さん、真の高みって、どういうことですか?」

「おお、史詩夏ちゃんも気になるか。教えてやろう。真の高みというのは、あらゆる武術に共通する、最高到達点のことじゃよ」


 あらゆる武術に共通する、最高到達点。

 なんかすごいこと言われたな。それって一体何だろう。


「例えば、柔道だったら、一番多くの技を上手にできる、とかですか?」

「まあ、技をうまくやるのも大切じゃがの。戦いにおいての武術というのは、いかに無駄がないかじゃ。あらゆる隙をなくし、どんな攻撃が来ても躱し反撃することができる……それこそが、真の高みじゃよ」


 あらゆる隙をなくす……そんなこと、本当に可能なのだろうか。

 例えば、相手の攻撃を完全に読み切り、十分にうまく体を使うことができれば……あるいは、可能かもしれない。しかしそんなこと、訓練を積んだって、とてもできる気がしない。

 神藤さんは、真の高みに到達していないのだろうか?私からすると十分すごい人だ。私の攻撃なんて易々と予想し避け、無駄なく倒す。

 真の高みに到達するにはどれほど極めれば良いのか、私にはとても途方もない話に思えた。


「真の高みに至るまでには、何が必要ですか?」


 私は今後の参考のために聞いた。正直、私がそんな高みに到達できるとは到底思えないものの、到達できなければ神藤さんは超えられない気がする。

 堂間さんは、うむ、と腕を組んで答える。


「鍛錬が命、と言いたいところじゃが、鍛錬しても到達できない者は到達できない高みじゃ。才能と努力どちらもいる。研ぎ澄まされた肉体と頭脳のなせる技じゃよ」


 才能、か……。


「私には、その才能はあると思いますか?」


 気になって思わず尋ねてしまった。

 神藤さんはちらりとこちらを見て、それから堂間さんを見る。

 堂間さんは真っ直ぐな目をして言った。


「ある。それはわしが保証しよう」


 そうか……。

 緊張していた体から力が抜けていった。

 才能があるというなら、目指してみようじゃないか。真の高みとやらを。

 ……と、私たちの会話に神藤さんが入ってくる。


「失礼ですが、私にない才能をこの小娘が持ち合わせているとは、到底思えないのですが?」


 イラッ。この人、本当に人に対して見下しが酷いな。そんなに私は神藤さんより下だと言いたいんですか?

 しかし、まあ、私も正直自信はない。神藤さんに比べれば、私なんてミジンコだ。ミジンコ。

 そんな私が神藤さんより上を目指せる器とも思えないが。


「お主はそういうところが駄目なのじゃ。少しは謙虚さを身につけい。それに、この子の才能が見えていないようじゃ、まだまだわしは超えられんよ」


 堂間さん……!

 私のことをちゃんと認めてくれている堂間さんの言葉に、私は思わず感激した。神藤さんへビシッと言ってくれたことにも感謝だ。

 本当に、その通りだと思う。神藤さんは謙虚さがないのだ。どれだけ自分に自信があるのかと問いただしたくなる。

 神藤さんは私と堂間さんの視線を浴びて、不機嫌を隠そうともせず目を細めた。


「ほう。さあ、どうでしょうかね。私はただ事実を述べているだけです」


 す、すごい。全然怯んでない。

 ここまでいくと逆に尊敬だ。神藤さんって、なんでここまで自信に満ちあふているんだろうか。

 堂間さんはやれやれとため息をついて肩をすくめた。お気持ち、よーく分かります。

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